「精霊騎士ハルト・カミカゼ。平民を扇動(せんどう)謀反(むほん)を企てた罪により、君を勇者パーティから追放する!」


 ある日、リーラシア帝国・帝都の街酒場で飲んでいたところ、突然、勇者から呼び出された俺――精霊騎士ハルト・カミカゼは、挨拶をする間もなく唐突に、予想もしなかった言葉を投げかけられた。

「いきなり呼び出してなに言ってるんだよ? まったく意味が解らないんだが。俺はそんなことした覚えはないぞ?」

「言い訳はいい! 証拠はあがっているんだ!」
「証拠? 証拠ってなんだよ?」

 証拠と言われてもこれっぽっちも心当たりがなかった俺は、思わず首をかしげてしまう。

「君が事あるごとに街に繰り出しては、平民どもにあることないことを語って聞かせ、自分のシンパを募っていることは、既に調査済みだ」

「いやいや、あれはそんなんじゃないっての。ただ街で飲み歩いているだけだから」
「ふん、白を切る気かい?」
「白を切るもなにも、まったく身に覚えがないからなぁ」

「だったらなぜ、平民どもは北の魔王ヴィステムを討伐した勇者の僕ではなく、精霊騎士ハルト・カミカゼをこうまで持ち上げるんだ! まるで北の魔王ヴィステムを討伐したのが君であるかのように、平民どもは君を熱烈に支持しているじゃないか!」

「そりゃあ、よく街で飲んでいるから、単に親近感が湧いているんだろ? 遠くのお姫様より、近くの幼馴染のほうが可愛く思えるようなもんだ」

 だって言うのに、勇者は聞く耳を持ってはくれなかった。

「シャラップ! 黙れ! 事ここに至って居直るつもりかハルト!」
「だから居直ってなんかないってば」

「黙れと言っているだろう! 挙句の果てに、吟遊詩人どもは勇者である僕よりも精霊騎士ハルト・カミカゼの武雄譚(ぶゆうたん)を歌い奏でる始末ときた! これには心底、腹が立ったよ」

 よほど、はらわたが煮えくり返っているのか、そう言い捨てた勇者は終始苦り切った表情だった。

「先の大戦で北の魔王ヴィステムを討伐したのは、勇者であるこの僕だ! 君は魔王四天王の一人を――確かに奴は北の魔王ヴィステム討伐において最大の障壁だったが――援護できないように、ひたすら釘付けにしていただけじゃないか!」

「だからそれも分かっているって。別に俺は、自分が北の魔王ヴィステムを倒したなんて一言も言っていないだろ?」

「どうだかな。少なくとも平民どもは精霊騎士ハルト・カミカゼが、北の魔王ヴィステム討伐において大活躍をしたと、この僕よりも持ち上げているのだから。これは揺るぎのない事実だ! まったく、これだから道理を知らぬ学のない平民どもは困る」

「それなら、今度お前も街で飲んでみたらどうだ? 堅苦しいマナーとかお作法とかが一切ないから、気楽に飲めていいぞ?」

「はんっ! どうして勇者であるこの僕が、薄汚い平民ごときと肩を並べて酒を飲まないといけないんだ! やはり君は、僕を馬鹿にしているようだな!」

「お前こそさっきから平民平民って、馬鹿にしたみたいに言うけどさ。俺もお前も元々は平民じゃないか」

 ほんの半年ほど前、北の魔王ヴィステムを討伐した功績を認められた俺は、下級貴族である騎士の位を授与された。
 その時初めて、俺は『剣も使える精霊使いの平民』から、正式に『精霊騎士』になった。

 そして勇者は貴族の中でも一握りしかいない侯爵の爵位を授与され、つまりは上級貴族へと取り立てられていた。

 それは裏を返せば、ちょっと前までは、俺も勇者もどちらも平民だったということでもある。

「不敬な……! 僕は勇者であり、上級貴族だ! それ以外の何者でもない。もういい、話は終わりだ。もう一度だけ言うぞ。精霊騎士ハルト・カミカゼ、謀反の疑いにより君を勇者パーティから追放する。数日内に帝都を出ていきたまえ。これは勇者が受けた神託――神の言葉である」

「神託ってお前、冗談だろ?」

 勇者の得る神託とは、すなわち神の啓示だ。
 それは皇帝や王、法律の上位に存在し、何者も抗うことは許されない絶対の命令――!

「話は終わりと言ったはずだ。さようならハルト、もう君の顔を見ることもないだろう」

 この言葉を告げたことで溜飲が下がったのか、勇者はしたり顔で薄ら笑いを浮かべていた。

 この馬鹿にしたような態度。
 間違いない。
 この神託は十中八九、勇者が勝手に作った『偽の神託』だ。
 人間の希望と未来を指し示す神託が、こんな事実無根で個人的なものであるはずがない。

 だが神託は勇者しか聞くことができない以上、勇者以外の誰も真偽を証明することはできなかった。

「マジ……かよ……」

 こうして。
 北の魔王ヴィステムの討伐を成し遂げた勇者パーティのメンバーの一人――俺こと精霊騎士ハルト・カミカゼは。
 ある日突然、理不尽にも勇者パーティを追放されてしまったのだった。