諦めきっていたから、ユーニのことを耳にしても、嫉妬などは起こらなかった。

 だから両親も、何がなんだか分からないのだろう。


 ――感じるのは、ただただ悲しみ。

 そしてエステルは、ただ純粋に、こう思うのだ。

「私は……伯爵令嬢が、羨ましいわ」

 私室で一人になってようやく、彼女はそんな本音を口にすることができた。


 王太子と伯爵令嬢の話は、それからもどんどん出てきた。
 ユーニ・アレスが、ピンクブラウンの髪と目をした愛嬌もある美少女だったせいもある。

 エステルとアンドレアの婚約の危機の話がひそやかに広がっていく中、伯爵令嬢はエステルと違って可愛げがある、という揶揄までどこからか出始めた。

 そうすると、伯爵令嬢が結婚の有力候補なのではという噂が一気に広がった。

 アンドレアはそれを否定するような声明も、一切発表しなかった。

(きっと……結婚相手を替えたいのね)

 可哀そうな王子様、とエステルは眠る前に彼に同情する。

 明日は、エステルが誕生日を迎えて一か月半、秋のシーズンの開幕を祝う式典が王宮で予定されていた。

 ユーニが現れてから、初めての顔合わせとなる。

 胸が、ずぐりと痛む。眠れるか心配になってくる。

(大丈夫、もう悲しむのも苦しむのも、疲れてしまったもの……)

 彼の前では、せめて、態度だけでも相応しい公爵令嬢でいたい。

 結婚相手を替えたい気持ちがあるのかどうか、エステルは明日、彼自身の様子で確認するつもりだった。

 そして、もう、終わりにする。

 エステルには、王家の決定を変えることはできない。

 でも――替えざるをえない方法なら、知っている。