「ふっ、ふふ……やめてください、アンドレア」
「ようやく笑ってくれたな。なら、やめるわけにはいかないな」

 じゃれ合うみたいに、ソファで抱きしめ合ったまま彼からのキスの雨を受ける。

 だが、不意に、彼のキスは、エステルのドレスの襟から覗く傷跡へと向きを変えた。

 空気が、その一瞬で変わった気がした。

 その時になって、エステルはいつの間にか彼の膝の上に座らされていることに気づく。

「この傷もすべて、愛している」

 唇の熱を強く感じて、エステルは胸がきゅんっと甘く高鳴った。

「エステル、どうか俺と結婚してくれ。俺を君の夫にして欲しい」

 彼が胸元から目を上げる。

 強い眼差しに見つめられて、心臓がどっくんとはねた。

「君の望むような婚約者になるから、チャンスが欲しい」

 嬉しさで胸がどうにかなってしまいそうだ。

「……もう結婚まで決まってしまったのに、チャンスが欲しいなんて言い方、おかしいです」
「初夜で君に『嫌』とつっぱねられたら俺は立ち直れない」