それと同時に、彼がエステルのことを考えて、同じくらいつらい思いで背を向けていたのだと思うと、悲しくて仕方がないのだ。

 どうして気づいてあげられなかったんだろう。

 彼に走り寄って『気にしないで』と言ってあげられたら、よかったのに。

「っすまない、エステル」

 ハッとこちらを見たアンドレアが、エステルを強く抱きしめる。

 エステルも、ようやく抱きしめられるのだという思いから、しがみつくみたいに彼の背に腕を回してしまった。

 頬を濡らす温かい涙は、なかなか止まってくれなかった。

 過去の悲しみと、そして確かに愛があったことへの思い。
 アンドレアから向けられている確かな愛情が、これまでの彼女の傷ついた心に雨を降らして重くこびりついていた感情をすべて洗い流し、腕の温もりで心に晴れ間を作ってくれるみたいだった。

「許してくれ。一生をかけて、償っていくから」

 どうか泣かないでくれと、アンドレアがエステルの涙を手で拭う。なぐさめるみたいにキスもした。

 彼とは思えないキスの雨と、くすぐったさに笑いが誘われた。