踏ん切りがつかなかった決意に、終止符が打てるのではないかとアンドレアも考えた。だが――婚約の解消には踏み出せなかった。

 公爵家が嫁ぎ先の変更提案を出し、国王がそれを受ける。

 そして同じく大国であるヴィング王国の第三王子を早々に引き合わせた際、余計にアンドレアは是非を出せなくなった。

 彼女の隣に座り、話しかけているアルツィオに強く嫉妬した。

 魔法を使ってまで、二人だけの内緒話をしていることに一層胸が焦げつきそうだった。

 エステルが領地の別荘に行ってしまったあとも、ヴィング王国第三王子のアルツィオが、顔を見に行っているようだと噂が流れた。

 それを耳にするたび、アンドレアは強く拳を握った。

 まだ、彼女は自分の婚約者なのだと――それだけの繋がりで、冷静さをギリギリたもっている自分がいた。

(だが――)

 今夜の舞踏会で、踊るだけでなく自分の胸に独占しているアルツィオを見て、カッと腹の底が焼けついた。

 はっきりとした怒りが込み上げた。

 アルツィオは、エステルを自分の妻にするつもりでいるのだ。

 そう見せつけられている気がした。しかも間もなく、ふと彼と目が合う。

『あなたの婚約者、もらってしまってもいいんですよね』

 そう、挑発するように彼の唇が動くのを、アンドレアは見た。

 そうしたらアルツィオが、エステルを会場から連れ出したのだ。

 追わずにはいられなかった。アルツィオが向かったのは、恋人達が過ごす庭園だ。

 そこでエステルに、何をするつもりだろうか。

 アンドレアはあの時、焦燥感で護衛にもついてくるなと釘を刺して二人を追っていた。

 エステルはそこで行われている男女の恋の会話も、愛の駆け引きも、交際のスキンシップさえも知らない。