(そうしたら私は、未練なく……)

 怖さに、手が震えた。

 明日、アンドレアと話すことを想像したせいだろうか。

 それとも――この先で、自分がしようとしていることのせいか。

(もしくは……この恋が、完全に終わってしまうことを……?)

 もしかしたら、という浅はかな願いが、彼女に唯一の結婚資格である『魔力量』へと固執させているのか。

 未練は、ない。

 こんな魔力は、邪魔なだけ。エステルにも、そして――アンドレアにも。

       ∞・∞・∞・∞・∞

 翌日、エステルは両親よりも先に王宮へと向かった。

「こちらへどうぞ」

 待っていたメイド達に導かれて、すでに用意されていた式典に相応しいドレスへと着替える。

 エステルのミルクティー色の髪にもよく似合う、深いオレンジを基調とした秋らしい、城も多く使われた上品なドレスだった。

 襟もとからどうしても覗いてしまい、大きな裂傷痕の先から人々の視線をそらすように、首元には彼女の瞳と同じダークアメシストの澄んだような宝石のネックレスがされた。