(ほとんど魔法が使えないと知られている私に、唯一できる魔法……)

 皮肉にも、大怪我をしたことが彼女にその魔法を使えるようにさせた。

 魔力量が国内の女性でトップだったせいで、アンドレアはエステルを婚約者にとあてがわれた。
 アンドレアは古い婚姻事情よりも、国をよくできる女性を妃にしたいのだろう。

 その意思を、エステルも尊重している。

 そして――叶わない恋に、終止符を打ちたく思っている。

(叶わないと分かっているのに、そばにいたら、胸が苦しくなるくらいにあなたのことを忘れられないの)

 閉じた目から、誰の前でも見せたことがない涙がそっと流れた。

 たぶん、家族にもとうとう見せてしまうことになるだろう。

(でも……)

 もう、これ以上心がぼろぼろになりたくない、というのも本音だった。

 アンドレアが、たとえば魔力量云々でエステルを正妻にし、のちに伯爵令嬢を娶るとなったらどうか。

 その時には、エステルは壊れてしまうだろう。

 恋した人の幸せを、隣で見せつけられるのは無理だ。

 彼の前では、せめて呆れられないような立派な公爵令嬢でいたい。取り乱すなんてことも、恋をした彼の幸せな結婚を祝福できないことも、嫌だ。

(彼が気に入ったのなら、……立場も全部、伯爵令嬢にあげるわ)

 エステルが与えられない笑顔や、安心感を彼にもたらしてくれるのなら、言うことは何もない。