学校という場所ほど、特に教室という場所ほど最悪な場所はないだろう。
たくさんの人の興奮、ときめき、恋、活気、切なさ、悲しみ、絶望、幸福が詰まっていて、それらが全部ぐちゃぐちゃに混ぜられて青春という匂いになって満ちている。
全く違う感情なのに全部一緒に混ぜたそれらはひどく濃く、むせかえるような匂いで、教室に入るたびに息が苦しくなる。
だから私は早朝に登校する。
誰もいない、空気の澄んだ教室に入る。
昨日のままの日付と日直を書き直して、先生がどこからか持ってきた植木鉢に水をやって、黒板のチョーク置きに溜まった粉を小箒で払って綺麗にチョークを並べる。
裏紙箱に乱雑に入れられたプリントをきちんと揃えて、掃除用具入れの箒をきちんとフックにかけて、適当に雑巾かけの上に積まれた雑巾を丁寧に干し直す。
窓を少し開けて空気を回し、机を揃えて並べたら、朝の私の仕事はおしまい。今日はいつもより早く終わった。あと7分したら女の子が一人来る。いつもポニーテールに髪を結っている学級委員の子が。
名前、なんだっけ。
名前も忘れてしまった、いやそもそも知らないのだろう。彼女は毎朝同じ時間に来るから私は動きやすい。いつまでに終わらせたら何かしているのを見られないかがきちんと分かる。別に悪いことをしてる訳ではないけれど、なんだかでしゃばっているように思われそうで、こんなクラスに浮いてるやつが色々してるなんて嫌だろうと思う。だから私はいつも5分前にはおとなしく席について小テストの勉強をする。
は、と、ほ、の間くらいの口で息を吐く。
長くため息をつく。
朝は、いい。
人がいないから、空気が澄んでいて息がしやすい。
それでもやっぱり嫌なことは
誰もいないから
やることがないから
ぼーっとしてしまって
人はそんな時たいてい
窓の外を見る生き物だから
つい空が目に入ってしまうのだ。
今度はグッとトーンの落ちたため息をつく。
教室のドアが開いて、彼女が入ってきた。
私は本に視線を戻した。