茜と結婚したのはつきあって八年後、ともに二十五歳の時だった。

 現役で別々の大学に進学し、二十歳を待って同棲した。
 実家から抜け出したいという思いは共通だった。

 三軒茶屋を選んだのは、通学の便がよく、夜遅くまで店がやっていたからだ。
 下町っぽい雰囲気も気に入った。

 マンションは今と変わらない。その時点で築二十年の1LDK。管理費込みで十三万円の家賃は折半した。
 ぼくは予備校とウェブサイト制作会社、茜はアパレル店とパチンコ屋でバイトした。
 入学金以外、お互い親には頼らずに、学費も自らまかなった。
 実家が隣県だったから、奨学金は得られなかった。

 生活は苦しかったが、嘘のない、「揺るぎのない正しさ」を感じられたあの日々は、心の底から幸せだった。
 結局、ぼくも茜も、一度も浮気をしていない。