初夏の選挙でぼくらはそろって信任された。
 旧姓谷口茜が生徒会長、ぼくは副会長だ。その年の冬、ぼくと茜はつきあい始める。

 放課後、ほかの役員が引き上げて、生徒会室に二人になった。
 どちらからともなく、キスをした。お互いに初めてだった。

「あのさ、前田くん」
「ごめん。こういのはちゃんと告白してからすべきだよな」
「ううん、それはいいの。だって、言葉にしてないだけで、わたしもあなたも、考えていることは同じでしょ?」
「谷口さんの気持ちまで正確にはわからないよ」
「じゃあ、単に人恋しく、性的なことにも興味があって、キスをしたと思ってるんだ?」
「そうでないことを願っている」
「ねえ、前田くん、わたしはあなたが大好きだよ」
「よかった。僕も谷口さんを大好きだ」
「長いつきあいになりそうだから、一つだけ、ルールを決めておきたいんだ」
「浮気ならするつもりはないよ」

 そこで茜は苦笑した。
 制服のぼくのネクタイをきゅっと絞め、「お父さんも同じことを言っていた」と囁いた。
 その意味を理解するのはもう少し後のことだ。

「お互いに、嘘をつくのは絶対やめよう」
「それがルール?」
「それがルール。約束できる?」
「浮気しないじゃなくて?」
「心変わりは仕方ない。でも、その時には取り繕わないでほしいんだ。嘘は相手を傷つける。心をえぐる。『浮気した』って打ち明けてくれたほうが、何倍もすがすがしい」
「しないよ、浮気なんて」
「わかってる。多分、あなたは浮気はしない。むしろわたしのほうが可能性がある」

 胸元の白いスカーフを揺らしながら茜が笑った。