茜を亡くし、他人と接することに臆していた。
 茜は高校時代の同級生だ。
 当時から目を引く美少女だったのに、曲がったことが大嫌いで、同性からも異性からも浮いていた。

 ぼくらが通っていたのは県立の進学校だ。
 生徒会の役員は、実りが薄く、雑事を抱える。だから、誰もすすんで手を挙げない。
 二年生の担任が、たまたま生徒会の顧問だった。「初夏の選挙に誰も出ない」と嘆いていた。
 一本釣りされたのが、帰宅部だったぼくと茜だ。

「正副会長やってくれ。どっちがどっちでも構わない。大丈夫、選挙は信任投票だ。俺は教師を二十年やっているが、信任投票で落ちたヤツを見たことがない。活動は最大限フォローしてやる。前田も谷口も、成績は問題ないだろう。アオハルに一つぐらい思い出つくれ。お前ら、ろくに話したこともないだろうけど、価値観がよく似ているぞ」

 放課後の職員室に呼び出され、説得された。茜がすかさず問いただす。

「前田くんと価値観が似ているって、先生、どうして言えるんですか?」
「怒りの矛先が同じだからだ」
「怒り? わたし、前田くんが怒っているのを見たことがありません」
「あからさまには俺もない」
「ずいぶんと無責任ですね」
「谷口は怒りを素直に表す。対する前田はそれを押し殺すんだ。けれど、したたかに抵抗する。二人とも矛先は、不正や不正義みたいな何か。お前らいいぞ。いかにも『若者』って感じがする。俺はそういうのが大好きなんだ」