最期の嘘

 どう答えるのが正解なのか、わからない。
 わからなくて、困惑し、ぼくは茜を抱く手に力を込める。

「再婚してね、絶対だよ」

 茜が同じ言葉を繰り返す。

「悦史くんはまだ二十八歳だ。あと半世紀は生きていく。わたしと同じであなたはとっても面倒臭い人だから、誰かの支えが必要だよ」
「そんなに面倒臭いかな」
「自覚しているだろうから、答えてあげない。それからね、必ずパパになりなさい」
「なんだそれ?」
「わたしたちは思春期を終わらせないまま逃げ出した。だから、乗り越えるべき親を乗り越えられていないんだ。悦史くんの中二病が治っていないのはそれが理由。もちろん、わたしも完治してない。そんな二人が子どももつくらず一緒にいたから、なんとなく『揺るぎのない正しさ』を暮らしの中に落とし込めてきた。でもね、それはこの先、半世紀も続けられないよ。ましてや悦史くんは同じ中二病のわたしを失う」