最期の嘘

 茜はおかしそうに微笑んだ。
 ぼくは椅子に座ったまま、茜の上半身をそっと抱く。
 その体は空気のように軽かった。

「いま、コイツ死ぬな、と思ったでしょ」
「思ってないよ」
「あのさ、最期まで、わたしたちのルールは守ろうよ」
「『嘘をつくのは絶対やめよう』」
「うん」
「思ったよ。茜は死ぬんだな、って」
「よろしい」
「よろしくないだろ。残されるぼくはどうすりゃいいんだ」

 茜はひょい、とぼくの肩に顎を載せ、ゆっくり両手を背中に回した。
 そのまましばらく口を開かない。
 やがて「ふぅ」と息を吐き、耳元で囁いた。

「再婚してね」