「よかったらこれからも仲良くしようよ!」

 彼女がそう言った時、僕は、なんて能天気な人間なんだと思った。だってそうだ。一度会話を交わしただけでは、そいつの内面なんてわかるはずがない。多くの人間は猫を被り、声のトーンを上げ、愛想よく演じて、本性を胸の奥底に隠している。どの程度の距離感でいけばいいのかを測るためには、それが最良のコミュニケーション方法であると知っているからだ。そもそも、「仲良くしよう」と言葉にして続いた友情を僕は知らない。出席番号が近くて話していた彼らも、今では他人だ。知らない間に気の合う仲間を見つけ、徐々に離れていく。寂しくはない。こちらも元より、友情を育もうなんて気はさらさらなかった。だから、彼女の一言に僕が最初に抱いたのは、煩わしいという感情だった。
 けれど、一番能天気だったのは、僕自身のほうだった。何故なら、彼女の言葉に賛成したからだった。だけどそんなものは仕方ない。僕だって男だったということだ。あんなにもキラキラと輝いた目で頼まれたら、断ることなんてできるはずがなかった。
 それから僕らは良好な関係を築けていけていたと思う。中学の頃を思えば見違えるほどだ。僕と千種を含めた五人の「サラダグループ」は、互いに好きなものも、考え方も違っていたけれど、確かに繋がっていた。
 だが、あの日の出来事が、僕と千種の関係を一転させた。思えばそれからずっとだ。ずっと、修復不可能なほど徹底的に、僕らは歪んでしまっていた。