翌日、思いもしない報せを受けた私は、放課後に鼻息荒くしたまま生徒会室に単身乗り込んでいた。
「ちょっと、監査委員会が解散てどういうこと?」
私の到来を予見するかのように待ち構えていた日浦君に、遠慮なく詰め寄って事の経緯を問いただした。
「まあまあ、ちょっと落ち着いて」
「あのね、これがのんきに落ち着いていられると思う?」
「倉本さんの気持ちもわかるけど、これは前からずっと話があったそうなんだよ」
「え? そうなの?」
私の出鼻をくじくように、日浦君が監査委員会の解散話が今に始まったことではないことを明かした。当然、なにも知らなかった私はいきなりのことに面食らって勢いをそがれてしまった。
「もともと、ふたりしかいない監査委員会を残す必要があるのかって議論は出ていたんだ。ただ、監査委員会の委員長だった田辺先輩には人望があったから、なかなか解散という話にまではならなかったらしいんだ」
「じゃあ、私には人望がないからさっさと解散することに決めたわけ?」
「いや、そうでもないんだ。倉本さんだって人望あるし、なにより田辺先輩とやってきた実績があると考えてる」
「だったら、どうして?」
「理由は、倉本さんをひとりにしておくのはもったいないから。今の監査委員会は倉本さんしかいないし、今後も人が入る気配もない。だったら、監査委員会を風紀委員会に吸収して、風紀委員としてこれまで通りがんばってもらえたらと思っている」
私の反抗をはねのけるように、日浦君は有無を言わせない勢いで説得してきた。これまでの生徒会長とは違い、制度改革に力を入れている日浦君ならではの手腕が、よりにもよって監査委員会に向けられるとは思わなかった。
「それは決定なの?」
「残念だけど、三年生が卒業するのと同時に新しい組織で運営しようと思っている。本当は、もっと早くやりたかったけど、倉本さんが事件を抱えたからしばらく待つことにしたんだ」
日浦君のその説明に、私は大きく肩を落とした。あの日、日浦君に調査依頼を受理したことを報告したとき、日浦君は調査依頼に難色を示していた。でも、それは調査依頼が匿名だったからということよりも、制度改革を急いでいたからということだったみたいだ。
にもかかわらず、日浦君が調査依頼を受理したことを認めたのは、最後の活動として目をつぶろうとしたのかもしれない。あのとき日浦君が率先して情報を出したのは、最後のはなむけと同時に早く調査を終わらせてほしいという思いもあったのかもしれなかった。
――監査委員会、なくなっちゃうんだ……
改めて向かいあった現実に、胸の奥が締めつけられるような痛みが襲ってきた。監査委員会活動室は、私にとっては田辺先輩と過ごした大切な思い出が詰まった場所だから、それがなくなるという事態に、私は悲しさと怒りとむなしさで頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。
「そういうわけだから、卒業式までもう日にちがないし、ある程度のところで調査内容をまとめてほしいんだ」
「ある程度っていうのは?」
「調査依頼が匿名だった以上、あまり踏み込まないでもかまないと思う。野球部の禍根についても、当事者が沈黙を保っているのなら、それはそれでいいんじゃないかって僕は思ってる」
「ちょっと待って、そんなあっさりと調査を終わらせることはできないんだけど。これまで、監査委員会はきちんと問題を解決することで誰かを助けてきたんだから、時間がないってだけで手を抜くことはできないよ」
日浦君の提案に、私は猛然と反発した。これまでの田辺先輩の活動は、一見したら中途半端に終わらせているように見えなくもない。でも、実際は問題をきちんと解決した上で当事者たちに寄り添っていたわけだから、そんな田辺先輩を見てきた私としては、安易に適当に調査を終わらせるつもりは一切なかった。
「まあ、そのあたりは倉本さんに任せるよ。どっちにしても、下田先輩たちが卒業してしまったら調査は終了になるから、倉本さんには悔いのないようにしてもらったらいいとも思っている」
私の猛反発に圧されたのか、日浦君は結果的に調査をどうするか私に委ねてきた。
「私は、調査を中途半端に終わらせるつもりはないし、監査委員会を辞めるつもりもないから」
そう断言し、話は終わりとばかりに日浦君に背を向ける。もちろん、自分がやっていることがわがままだということぐらいわかっていた。
でも、なんだか田辺先輩がいよいよ遠い存在になるような気がして、素直に受け入れることは絶対にできなかった。
「ちょっと、監査委員会が解散てどういうこと?」
私の到来を予見するかのように待ち構えていた日浦君に、遠慮なく詰め寄って事の経緯を問いただした。
「まあまあ、ちょっと落ち着いて」
「あのね、これがのんきに落ち着いていられると思う?」
「倉本さんの気持ちもわかるけど、これは前からずっと話があったそうなんだよ」
「え? そうなの?」
私の出鼻をくじくように、日浦君が監査委員会の解散話が今に始まったことではないことを明かした。当然、なにも知らなかった私はいきなりのことに面食らって勢いをそがれてしまった。
「もともと、ふたりしかいない監査委員会を残す必要があるのかって議論は出ていたんだ。ただ、監査委員会の委員長だった田辺先輩には人望があったから、なかなか解散という話にまではならなかったらしいんだ」
「じゃあ、私には人望がないからさっさと解散することに決めたわけ?」
「いや、そうでもないんだ。倉本さんだって人望あるし、なにより田辺先輩とやってきた実績があると考えてる」
「だったら、どうして?」
「理由は、倉本さんをひとりにしておくのはもったいないから。今の監査委員会は倉本さんしかいないし、今後も人が入る気配もない。だったら、監査委員会を風紀委員会に吸収して、風紀委員としてこれまで通りがんばってもらえたらと思っている」
私の反抗をはねのけるように、日浦君は有無を言わせない勢いで説得してきた。これまでの生徒会長とは違い、制度改革に力を入れている日浦君ならではの手腕が、よりにもよって監査委員会に向けられるとは思わなかった。
「それは決定なの?」
「残念だけど、三年生が卒業するのと同時に新しい組織で運営しようと思っている。本当は、もっと早くやりたかったけど、倉本さんが事件を抱えたからしばらく待つことにしたんだ」
日浦君のその説明に、私は大きく肩を落とした。あの日、日浦君に調査依頼を受理したことを報告したとき、日浦君は調査依頼に難色を示していた。でも、それは調査依頼が匿名だったからということよりも、制度改革を急いでいたからということだったみたいだ。
にもかかわらず、日浦君が調査依頼を受理したことを認めたのは、最後の活動として目をつぶろうとしたのかもしれない。あのとき日浦君が率先して情報を出したのは、最後のはなむけと同時に早く調査を終わらせてほしいという思いもあったのかもしれなかった。
――監査委員会、なくなっちゃうんだ……
改めて向かいあった現実に、胸の奥が締めつけられるような痛みが襲ってきた。監査委員会活動室は、私にとっては田辺先輩と過ごした大切な思い出が詰まった場所だから、それがなくなるという事態に、私は悲しさと怒りとむなしさで頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。
「そういうわけだから、卒業式までもう日にちがないし、ある程度のところで調査内容をまとめてほしいんだ」
「ある程度っていうのは?」
「調査依頼が匿名だった以上、あまり踏み込まないでもかまないと思う。野球部の禍根についても、当事者が沈黙を保っているのなら、それはそれでいいんじゃないかって僕は思ってる」
「ちょっと待って、そんなあっさりと調査を終わらせることはできないんだけど。これまで、監査委員会はきちんと問題を解決することで誰かを助けてきたんだから、時間がないってだけで手を抜くことはできないよ」
日浦君の提案に、私は猛然と反発した。これまでの田辺先輩の活動は、一見したら中途半端に終わらせているように見えなくもない。でも、実際は問題をきちんと解決した上で当事者たちに寄り添っていたわけだから、そんな田辺先輩を見てきた私としては、安易に適当に調査を終わらせるつもりは一切なかった。
「まあ、そのあたりは倉本さんに任せるよ。どっちにしても、下田先輩たちが卒業してしまったら調査は終了になるから、倉本さんには悔いのないようにしてもらったらいいとも思っている」
私の猛反発に圧されたのか、日浦君は結果的に調査をどうするか私に委ねてきた。
「私は、調査を中途半端に終わらせるつもりはないし、監査委員会を辞めるつもりもないから」
そう断言し、話は終わりとばかりに日浦君に背を向ける。もちろん、自分がやっていることがわがままだということぐらいわかっていた。
でも、なんだか田辺先輩がいよいよ遠い存在になるような気がして、素直に受け入れることは絶対にできなかった。