すると、彼は『うーん』と顎に手を当てて少し考えて、
『わからない』
と、曖昧に笑って答えた。
『え?わからないの?』
『うん』
自分でもわからないものなのだろうか。
てっきり、よくアニメなどであるのがこの世に未練があってとかそういう感じなのかと。
まあ、みんながみんなそういう未練があって幽霊になるわけじゃないんだなぁ、と他人事のように思う。
『じゃあ、どうやったら成仏できるとかも知らないの?』
『知らない』
『一生、幽霊でいるつもりなの?』
『質問ばっかりだなぁ。ずっといるつもりはないよ』
ずっといるつもりはない、とはっきり言い切った彼に胸が鋭利な刃物で引き裂かれたようにズキンと痛んだ。
だって、それじゃあまたいつかわたしの前から伊吹がいなくなっていってしまうということになる。
心のどこかで成仏の仕方がわからないんだったら、ずっと彼はわたしのそばにいてくれるんじゃないか、という淡い期待はこのとき見事に打ち砕かれた。
『……じゃあ、これからどうするの?』
『とりあえず、幽霊として凜のそばで過ごそうかな。最近、学校行ってるの?』
コテン、と首を傾げてわたしを見るその瞳や仕草が生きていた頃の彼と何も変わりなくて本当に生き返ったんじゃないのかと、つい錯覚してしまう。
『……行ってない。伊吹がいないのに行けるわけないじゃん。伊吹のいない世界なんてつまんないよ』
そう言いながら彼に触れようとそっと手を伸ばした。だけど、その手は彼の体をするり、とすり抜けて空気を切っただけで触れられなかった。
その瞬間、彼はもう死んでいて本当に幽霊なのだという現実を痛いほど突き付けられた。
―――ああ、本当に死んでしまっているんだ。
こんなに近くにいるのに、手を伸ばせば届く距離にいるのに……もう触れることすらできないなんてあんまりだ。
そんなわたしの気持ちを察したのか伊吹は何も言わず、形のいい眉をへにょりと下げて、ぎこちなく笑った。
『凜からは触れられないみたいなんだ。俺は自分の意思でどうにかなるみたいだけど』
その言葉通り、彼がわたしの頭をわしゃわしゃと優しく撫でる。