……都合のいい夢だろうか。

伊吹は制服を着ており、硝子玉のように澄んだ瞳でわたしを見つめると、ふっと目を細めて優しく笑った。

ドクン、と鼓動が大きく高鳴り、早鐘を打ち始める。

夢にしてはリアルすぎる。

チクタクと時を刻む目覚まし時計の秒針の音、虫の鳴き声……それに目の前にいる伊吹そのものが夢だとは思えなかった。

それにわたしはこんな伊吹は知らない。

わたしの中で根来伊吹という男は黒髪という印象が強かったけれど、目の前にいる彼は甘いチョコレートのような髪色をしていたのだ。

そういえば、わたしが熱を出す前日……伊吹が死ぬ前日に【人生初 カラーしてきた】というメッセージが送られてきていたような気がする。

いくら夢でもどんな髪色かなんて見ていないものをこんなにもリアルに再現することは不可能だ。

つまり、目の前にいる彼は夢ではなく、実際に存在していて確かにわたしの名を呼んだということである。


『ごめん……っ。わたしが風邪なんか引いて休んだから……だから、伊吹は……っ』


何がどうなって彼がわたしの前に現れたのかはわからないけれど、もう一度会えたならわたしは彼に謝りたい。

ずっと、ずっと謝りたかった。
謝っても許してもらえないかもしれないけれど。

こぼれ落ちてくる涙を両手で必死に拭う。


『泣かないで、凜は何も悪くないよ』

『でも……っ』

『でもじゃない。これ以上自分のこと責めたら怒るよ』


涙で滲む視界の先で怒ったように眉間にシワを寄せた伊吹がいて、思わず押し黙った。

幼馴染の経験上、伊吹を怒らすと色々と面倒なのでそれは避けたい。

でも、本当にわたしは許されてもいいのだろうか。


『うぅっ……』

『凜は何も悪くないけど、優しいからきっと自分のこと許せないとか思ってるでしょ。だったら、凜のこと、これから見守らせて。それでチャラにしよう』


伊吹の柔らかくて優しい声に深く考えずにコクリと頷いてしまった。

見守るってどういうこと……?

ようやく涙も収まってきたところでわたしは口を開いた。


『……えっと、一応聞くけど夢じゃないよね?』


わたしのベットに頬杖をつきながら、得意げに鼻を鳴らすと『聞いて驚くな。俺、幽霊になったんだ』と言った。

ゆ、幽霊……!?

確かにこの世には幽霊という言葉があることくらいは知っていたけれど、本当に存在していたんだ。

でも、どうして彼が幽霊なんかに……?

驚きよりも先にそちらに疑問が向いてしまい、


『なんで幽霊になったの?』


そのまま、素朴な疑問をぶつける。