―――伊吹くんが亡くなったんだって。

その訃報がわたしの耳に届いたのはその日の夜の事だった。

お母さんが部屋に入ってきた時から深刻そうな表情を浮かべていたので何事かと思っていたけれど、思わず耳を塞ぎたくなる内容に言葉を失い、初めは涙さえでなかった。

だけど、段々と頭の中で言葉の理解が追いついてきたのか瞳から大粒の涙がぽつり、とシーツに落ちて丸いシミをつけた。

なんで、彼が。
死んだなんて、信じられない。

その日、わたしは風邪を引いて寝込んで学校を休んでいた。

死んだ彼はわたしと幼馴染で小学校の頃から時間が合えば一緒に登校していたけれど、その日はわたしが休んだ為に家に迎えに来ることも無く、そのまま学校へ向かっている途中に信号を無視した車と接触し、救急車に運ばれたが意識が戻らず死亡が確認されたそうだ。

わたしが風邪なんか引いて学校を休んだからだ。

いつものように彼がわたしを迎えに来てさえいれば、彼は死なずに済んだかもしれないのに。

どうしようもない後悔がわたしの心の中に押し寄せてきて、ぐるぐると回り続け、何度も何度も考えては自分のことを責めたわたしは段々と外に出れなくなり、心を閉ざして塞ぎ込んだ。

伊吹のいない生活なんて考えられない。
そんな世界で生きていたって意味がない。
死んだ方がマシなくらいだ。

毎日のように君を想って泣いて、息をすることさえもただ苦しかった。


「一緒に卒業しようって約束したのに」


ぽつり、と呟いた言葉は誰もいない部屋の中に虚しく溶けて消えていく。

奇しくもわたしが生きている彼と最後に話した言葉は同じ高校に入学したこともあって『一緒に高校を卒業しようね』という今となっては一生叶うはずのない言葉だった。

卒業する前に死んじゃうなんて、酷いよ。

わたしは、まだ君に好きだと伝えられていない。
こんなことならもっと早くに好きだと伝えておけばよかった。
幼馴染という関係が壊れてもいいからずっとずっと好きだったと伝えるべきだった。

なんて、今更言ったってただのタラレバだ。

人間は失ってから気づくことが多すぎて嫌になる。

さて、今日も君のいない日が終わろうとしている。

君が死んでから一週間が経とうとしていて、時間は君がいなくなってもまるで何も無かったかのように進んでいて憎らしい。

いや、わたしだけが、ずっとあの日から止まったままなのだ。

そろそろ寝ようと思い、ベッドに入ってそっと瞼を閉じるけれど、いくら目を瞑っていても脳が眠りの世界へとは落ちてくれない。


『……凜』


突然、聞こえるはずのない声が聴こえてきて、ついに夢にまで出てくるようになったのかと寝返りを打った。


『……凜、聞こえる?風邪はもう大丈夫?』


夢のはずなのに脳に映し出される映像は真っ暗で、ただ耳に届く声だけがやけにリアルだった。

……本当に伊吹に名前を呼ばれているみたい。

なんて思いながら重い瞼をゆっくりと持ち上げて『……へっ?』と何とも拍子の抜けた声が洩れた。

だって、そこにいたのは死んだはずの伊吹だったからだ。