ナスターシャに続いてウェルシアという専属メイドを失った私は、新しい美少女メイドのアイリーンを雇った。

 たしかどこぞの下級貴族の妾腹の娘だったかな?
 妾の子ということで肩身の狭かった実家から、侯爵家令嬢の専属メイドになるという名目で体よく追い出されたようだ。

 貴族の間ではよくある話過ぎて、既に詳細は忘却の彼方にあった。


「私は掃除をするように命じたはずだけど?」

 そう言った私の指先にはほんのわずか、ちみっとホコリが付いている。
 さんざん窓の桟を指でこすってようやく付いたホコリだ。

 つまりいつもの難癖だった。
 今日からはこの新人美少女メイドをいびり倒す予定(笑)

「申し訳ありません、直ちに掃除し直しますので!」

「その間、私は部屋にいられないのだけれど? あなたはたかがメイドの分際で、私を部屋から追い出そうと言うのかしら?」

「め、滅相もございません! あの、その……」

「ほんと使えないグズね。もういいわ、下がりなさい。顔を見るのも不愉快よ」

「ほ、本当に申し訳ございませんでした。失礼いたします……」

 肩を落として立ち去っていくアイリーンを、私は嫌らしいにやにや笑いとともに見送った。

「ま、もって後一週間ってところかしら? 辞めるのが先か、心が病むのが先か。せいぜい楽しませてもらおうかしら(笑)」



  ~~一か月後。

「くっ、あれからもう一か月も経つっていうのに、想像以上に粘るわね? 何を言われても全然メゲないし、なんなのこいつ! 頭おかしいんじゃないの!?」

 アイリーンは私のいびりに鋼の意思でもって耐え抜いていた。
 しかも指摘したところを次からはそれはもう完璧にこなすせいで、私のいびりネタも尽き始めつつあるのだ。

「もはや気分で普段とは逆のことを言う(たぐい)の難癖以外は、ほぼ不可能なレベル……!!」

 なんかもう負けた気分にさせられる毎日だ。
 つまり私のストレスはもはや限界寸前だった。

「ほんっと意味が分かんないんだけど? ここまできたらもうマゾなんじゃないのこいつ?」

 そう考えたらなんだか背中がぞぞっとしてきたんだけど?

「くしゅんっ! やだもう風邪かしら? やーねぇ……」



  ~アイリーンSIDE~

 今日もマリア様は大変素敵でいらっしゃいました。
 特に至らぬ私をいたぶる時の嗜虐的な瞳……。
 思い出すだけでゾクゾクしちゃいます。

 だってそうでしょう?

 些細なミスを見つけてはねちねちと指摘してくる――つまりその間は私のことだけを真剣に見て、考えて、思ってくれているということなのですから。

 私がより完璧に仕事をすればするほど、マリア様もより真剣に私の粗探しをしてくれるんですから。

 これからももっともっと、完璧に仕事をこなしてみせます。
 そうすればマリア様はもっともっと、私のことを見てくれるんですから。

 ああっ!
 マリア様に怒られるたびに私の心が激しく高鳴ってしまっていることを、私がはしたない感情を抱いてしまっていることを。
 マリア様はぜんぜん気づいておられないのでしょうね。

 本当にマリア様ったら、罪なお・か・た……♡

 ああっ、マリア様!
 マリア様の前でいけない感情を覚えてしまう愚かな私めを、もっともっと叱り倒してくださいな!