それは何の変哲もない休日の昼下がりだった。

「ま、まままマリア様! 大変です! 事件です! 一大事です!」
 専属メイドのアイリーンが、ノックもせずに私の部屋に入ってきやがったのは!!

 イラァッ!!

「お気に入りのロマンス小説の最新刊を読むから2時間ほど一人にするようにって言ったあったでしょ、このグズっ! しかもノックもしないで入ってくるなんて!」

 もちろん私はキレッキレにブチ切れた。
 しかもちょうど想い合う二人が困難を乗り越えて今まさに結ばれる、超いいシーンだったのだ。

 その甘い気持ちをぶち壊しやがってこの駄メイドめが……!
 ヒロインに思いっきり感情移入していたところから、いきなり現実に引き戻されてしまった虚無感と喪失感。
 私の心に巻き起こる怒りときたら、怒髪天を()くほどだった。

「も、申し訳ありません! ですが一大事なんです!」

「あらそう、いいわよ? 私は心がとっっっっても広いから、一応あんたの一大事とかいうクソみたいな言い訳だけは聞いてあげるわよ? でも聞くだけね。どんな理由でもこの場でただちにクビを宣告するから」

「クビでも何でも構いません! それでは申し上げます! どうか心を落ち着けてお聞きくださいませ」

「あっそ。で? とっとと言って?」

「先ほど空に巨大な隕石が観測されました。天文占星省の見立てによると、どうやらその巨大隕石が、このお屋敷めがけて落下しているようなのです」

「……はぁ? なに言ってんのあんた? 気でも触れたの?」

 私は無料炊き出しの列に並ぶ哀れな貧乏人を見るかのような、冷めきった目でアイリーンを見つめた。

 あまりにアホな言い訳すぎて、どうにも怒りがすっ飛んじゃったわ。
 これが目的だったとしたら、なるほど。
 なかなか冴えたやり方ね。

「ですから、巨大隕石がこのお屋敷めがけて落下しているようなのです」

「巨大隕石がこの屋敷めがけて落下しているですって?」
「左様にございます」

 いやマジで、なに言ってんのこいつ。
 あたおかってレベルじゃないんだけど。

「さっきからそれ、本気で言ってるの? ……うーん、いい出来」

 なんかもうあほらしくなった私は、新しく専属で雇った王都ナンバーワンのネイリストに綺麗にネイルしてもらった爪を、ご満悦で眺めはじめた。

 なんて綺麗なネイリングなのかしら。
 惚れ惚れしちゃう。
 見てるだけで楽しくなってくるわ。

「マリア様に嘘など申し上げません。本当に巨大隕石が今、このセレシア侯爵家のお屋敷に向かって一直線で落下しているんです」

「まぁたしかにあんたは忠誠心の塊みたいなメイドだからね。死んでも嘘は言わないわよね」

 それくらいには、私はこのアイリーンという専属メイドを信頼している。

「はい。ですので、マリア様は一刻も早くこの場を離れる必要があるんです」

「ふーん、そうなのね。つまり巨大な隕石がこのお屋敷に向かって落ちてるわけね」

「左様にございます」

「ふーん……隕石がお屋敷にね……隕石……直撃……お屋敷に…………はぁぁっっ!!?? ちょ、ちょちょ、ちょっとどういうことよそれ!?」

「ですから巨大隕石がこのお屋敷に向かって――」

「それはもう分かったから、もっと詳しく! 早く詳しい説明しなさいなこのグズっ! ほら早く!」

 だって巨大隕石がこのお屋敷に向かって落下してるとか、いきなり言われても困るんだけど!?