「なにあんた、私の専属メイドという栄えある立場にありながら、主人である私の命令を聞かないわけ? あんた何様のつもりなの? 別に石を食べろなんて無茶を言ってるわけじゃないでしょう?」

「ですがその……」

「食べ物の屋台にあるんだからちゃんと食べ物な訳でしょ? つまり私は食べ物を食べてみるように言っているだけよね? ねぇアイリーン。私、何かおかしなことを言ってるかしら?」

「……いいえ、マリア様は今日も正しくあられます」

「だったらとっとと食べなさい。ほら返事は? はーやーくー!!」

「……はい」
 アイリーンが悲壮感のこもった顔で頷いた。

 くくく。
 さすがのアイリーンも、あの気色悪いオクトパスを口に入れるのはためらうわよね。

 あー、鋼メンタルなこの子の嫌がる顔が見れるだなんて、今日は最高に気持ちいいわね!
 ここにきて良かったー!

「では、食べます……」
 言いつつも、どうにも食べることができないアイリーン。

「ねえまだぁ? いつまで待たせるのぉ? ねぇいつまでぇ~?」

「はい……ただちに……。はむっ……」

 死んだ目をしたアイリーンが、ついにたこ焼きを口に入れた
 しかし、アイリーンはたこ焼きを食べた途端に顔色を変えた。

「はふはふ……あちち……ごくん」

「ど、どうだった? 身体に異変はない? 手が増えてきたり、身体がふにゃふにゃになったりしてない?」

 オクトパスを食べてしまったんだから、悪魔の呪いかなんかで手足が8本になったり身体が柔らかくなって立てなくなってしまってもおかしくはない。

 無理やり食べさせておいてなんなんだけど。
 私は雇用主として興味半分、心配半分でアイリーンの様子を尋ねてあげた。
 すると!

「す……」
「す?」

「すごく美味しいです! ベリグーです! マーベラスです!」
 アイリーンがクワッと目を見開いて、鼻息も荒く言った。

「はぁ? ほんと? オクトパスが?」

「本当です。本当にこれは美味しいですよ! さっき食べたラーメンも美味しかったですけど、私はこれが今日一番のお気に入りです!」

「言っとくけど、騙したらあんたこの場でクビだからね?」

「マリア様を騙すなんていたしませんよ。本当の本当に美味しいですから。これは食べないと絶対に損だと断言できますから!」

「そ、そう……そこまでなの」
「そこまでです!」

「ふーん。普段控えめなあんたがそこまで強く言うんなら、試しにちょっとだけ食べてみようかしら……?」

 一応私は、この専属メイドのアイリーンをそれくらいには信用していた。
 半信半疑でたこ焼きに爪楊枝を突き刺す。

「あ、できたてで熱いので私がふーふーしますね。猫舌のマリア様にはかなり熱いと思いますので。ふー、ふー、ふー、ふー……ではどうぞ」

「ま、食べたアイリーンが生きてるんだから死にはしないわよね……それにこれが美味しかったらみんなに超自慢できるわけだし」

 むふふ。
 私はえいやと気合を入れると早速、アイリーンがいい感じに熱取りをしてくれたまん丸のたこ焼きを口に入れた。

 するとなんということだろうか!

「ふわぁ!? 口の中にとろとろのふわふわが広がっていくわ……!? しかもその中に、得も言われぬオクトパスのコリコリとした食感が、存在感をこれでもかと誇示しているわ!」

 私は1つ目を食べ終えると、既にアイリーンがばっちり熱取りを終えた2つ目のたこ焼きを続けて口に放り込んだ。

 美味しい、美味しいわ……!
 味や食感が癖になりそう!

 これはもう、この職人を囲って技術とレシピを独占して「セレシア家主催たこ焼きパーリー(タコパ)」を開催するまである……!!

「店主、今日からあなたを私の専属シェフの1人に任命するわ。ああ、お金のことなら気にしないで。こう見えて私は名門セレシア家のお嬢さまだから。まずは手付金としてキャッシュで100万――」

 私は着物ドレス職人の時と同じように、このたこ焼き屋のレシピと技術を独り占めすることにした。
 そして後日にみんなに派手に自慢して盛大なタコパも開催して――。

 そしてあの時と同じようにまたもや独占技術を流出させられ、たこ焼きは国中――どころか大陸中に広まる全世界的B級グルメになったのだった。

 どうしていつもこうなるの……?
 私が何かした……?
 ねぇ神様、そうならそうと教えてよ(ぐすん

 っていうかもしかして私って、神さまに嫌われてる……??