――と、

「マリア様マリア様。先だって先王陛下が譲位なされましたので、今はもう第二王女殿下ではなく、第二王妹殿下となられておりますよ」

 アイリーンが小さな声で指摘をしてきた。

「ああはい、そうね、そう言えばそうだったわね。まったく今や国王陛下の妹なんだから、どうせならこんな庶民向けイベントじゃなくて、王家主催の内々のパーリーとかに特別に呼んでくれたらいいのにね」

 そしたら私だって超やる気で着飾って参加するのに。

 ちなみに私のやる気のなさに比例して、今日のドレスはいたって安物のドレスだ。
 宝石とかはついてなくてとても軽くて、でも風を通しにくくて温かったりと、ゴージャスさよりも外での歩きやすさや活動しやすさを重視したドレスだ。

 もちろん安物といってもセレシア家の専属デザイナーの仕立てだし?
 ぶっちゃけ庶民の数か月分の稼ぎくらいはするんだけどね。

 視察とかに行く機会が増えてきた私のために、代替わりした新進気鋭の専属デザイナーがいくつかアクティブ活動用のドレスを用意してくれたのだ。

 最初はこんな安物を作りやがってふざけてるのかこの野郎――などと思ったものの。
 実際に着てみるとすごく快適だったので、最近は手抜きしたい時には割と愛用している。

 目的や用途、参加者のレベルに合わせてドレスを着分けるのは、まぁそれはそれで楽しくないこともなくもないしね。

 などとアイリーンと他愛もないことを話しながら歩いていると、いつの間にか食べ物関連の屋台が並ぶエリアへとやってきていた。


「ふーん、なんだかよく分からない食べ物がいっぱいね」
 私は率直な感想を述べた。

「今回の『ワールド・フェスティバル』では、外国人居留地に住む外国人の故郷の料理を調査して再現してあって、まだ見たことのない世界各地の珍しい食べ物がたくさん用意されているとのことですよ」

 事前に渡されていたペーパーを(面倒くさくて読む気のなかった私の代わりに)熟読済みのアイリーンが、かみ砕いて説明してくれる。

 やっぱこいつってかなり頭良いわよね?
 ってことはやっぱり、普段はわざと私がマウントを取れるように素人丸出しの意見を言ってるのかしら?

 まぁいいけどね。
 マウントとるのは気持ちいいし、頭がいいからこうやって面倒な作業も押し付けることができて役に立つわけだし。

「ま、どんなのがあるか見て回るだけでも、話の種くらいにはなるかな?」

 昨今の異文化ブームで知識マウントを取るためにも、こういった限定的な場所で先行公開される最新の異文化知識はあるに越したことはない。

「では早速参りましょう!」
「なに勝手にあんたが仕切ってるのよ。ふざけてるの? クビにするわよ?」

「大変申し訳ございませんでした。少々気が(はや)ってしまいまして……」

 どうやらアイリーンは異国情緒あふれる「ワールド・フェスティバル」の独特の雰囲気に、浮かれているようだった。

「ま、お祭りだし? 今日くらいは咎めないでおいてあげるわ。澄み渡った大空のごとく広大な私の心に、泣いて感謝することね」

「いとお優しきはマリア様の御心にございます。マリア様の御心の広さに、心からの感謝を捧げ奉る所存にございます」

「うむ」
 私の言葉を受けてむやみたらと格調高く言ったアイリーンに、私は気分よく頷いた。