「ウェルシア、紅茶はまだかしら？」
「た、ただいまお持ちします！」

「この紅茶ぬるいんだけど？」
「お嬢さまは猫舌なのでぬるい方がお好きと――」

「今は熱いのが飲みたい気分なの！　それくらい分かるでしょ！」
「申し訳ありません！　すぐにお取替えいたします！」

　パタパタと走り去っていくメイドのウェルシアを見て、私はにんまりといやらしい笑みを浮かべた。

　先日辞めさせたナスターシャの代わりに、新たに雇った若い美少女メイド。
　超がつくほどの可愛いこの女を、私は事あるごとにいびり倒していた。

　今も紅茶の入れ方で、正解のない難癖をつけてやったところである。
　どんな入れ方をしてもその逆を言って苛めるだけの簡単なお仕事（笑）

　美少女は嫌いだけど、美少女をいびって楽しむのは大好きな私だった。
　みんなもこの遊び、好きだよね？（笑）

　だってウェルシアときたら平民と大差ない貧乏下級貴族の生まれのくせに、ノーメイクでめちゃくちゃ可愛いくて、しかも性格もいいとかいう、ほんとムカつくムカつくムカつく×無限！な女なのだ。

　だから、

「なんだかこのフレーバー気に入らないわ、別のにしてくれる？」
「も、申し訳ありません！　すぐに入れ直します！」

　いっちょいびり倒してやるかってなもんで、こうやって事ある癖に難癖をつけていたのだった。

　今日も隣国の第３王子（＝優しいだけが取り柄の冴えないモヤシ陰キャ）がセレシア家にお目通りしに来るんだけど。
　そんなのの相手するのはかったるいんで合間合間にこの子をいびって暇つぶしする予定（笑）

「まったくウェルシア、いつまでかかってるの！　ほんと使えないグズね。親の顔が見てみたいわ」
「申し訳ありませんお嬢さま！　もう少々お待ちくださいませ！」


　　～～後日。

　第３王子とウェルシアの婚約が発表された。
　なんでも私の命令を受けて甲斐甲斐しく走り回るウェルシアの姿を見て、第３王子が一目惚れしたらしい。

「健気な姿に心を打たれたって、第３王子チョロすぎでしよ、常識的に考えて……」

　あんまし好みのタイプじゃないから羨ましくはないけど、ウェルシアをいびれなくなるのは残念だなぁ……。

　ま、ウェルシアからはなんかめっちゃ感謝されて、しかも我がセレシア家は隣国の王家と深い縁を結ぶことになったみたいで？

　ぶっちゃけその辺はちっとも興味ないんだけど、お父さまがとっても喜んでいたからそれは良かったかな。

「あ、でも王家が大々的に開催する結婚式に国賓として呼んでくれるのだけは楽しみかしら」

　きっとスーパーセレブがいっぱいいるからね！
　いい出会いとかあるかも？
　そうだ、新しいドレスも買ーおうっと♪

「それにしてもお付きメイドが隣国の王室入りとは。しかも性格がすこぶる良いと評判の第３王子の正妻ですぞ。これはマリア様も実に鼻が高いことですな」

「……ほんとにね」
「マリア様？」

「……ほんとどうしてこうなった？」

　ねぇねぇそこのあなた。
　ちょうどいいわ。

　参考程度にちょっとあなたの意見を聞かせてくれないかしら？