「そういうわけだから、後は時が来るのを待つだけさ。時間的にはそろそろだと思うんだがな」
「今度は何が起こるというのだ?」
「俺が説明するのは野暮ってなもんだ。なぁにすぐに分かるさ。後は起こってからのお楽しみということで」
アルツハウザー卿が悪だくみをする子供のようにニヤリと笑った。
それからしばらくすると屋敷を囲んでいた王国軍に動きがあった。
「見て見てセバスチャン! 屋敷を取り囲んでいた王国軍が、武器を捨てて投降し始めたわ!」
「そのようですな……!」
同時に大きな声が聞こえてきた。
「ここにいる全王国軍兵士に告ぐ! 既に国王陛下は退位され、王太子殿下が新たな国王とおなり遊ばされた! 同時にマリア=セレシアを国家反逆罪の疑いで捕らえよとの王命も取り消されている! 繰り返す! 既に国王陛下は退位され――」
声の主は、光り輝く白銀に赤の意匠が施された美しい鎧を着た、白馬に乗った騎士――近衛騎士だった。
「ねえセバスチャン、国王陛下が退位されたの?」
「なるほど。そういう落としどころですか」
「えっと、どうゆうこと?」
イマイチ要領を得ずに首を傾げた私に、セバスチャンが説明をしてくれる。
「王都で民衆が蜂起しただけなら――確かに大きな問題ではありますが――しかし単なる国内問題として済ませられます」
「ふむふむ」
「ですがマリア様をめぐってシュヴァインシュタイガー帝国からも強力な圧力をかけられてしまったとなると、これはもう外交問題へと発展してしまったのです。下手をすれば国家の存亡すら危うくなることでしょう」
「まぁそうよね。なにせシュバインシュタイガー帝国は大陸最大の超大国だもの。その気になればこの国を亡ぼすくらいは余裕よね」
大陸中の国家全てを同時に相手にしても、単独で勝てると言われるほどに圧倒的な超大国。
それが覇権国家シュヴァインシュタイガー帝国なのだから。
「かといって、これだけの一大事を今さら『なかったこと』になどできません。最早どうしようもなくなった国王陛下は、自らの退位と引き換えに、今回の一件を不問に付してもらおうと考えたのでしょうな」
「なるほどね、よくわかったわ。そしてそれはつまり、私は無事に生き延びたってことよね!?」
「そういうことにございますな。おめでとうございますマリア様」
「や、や、や…………やったわ!! これで今日届く新作の着物ドレスを着れるじゃない!」
確認するように問いかけた私の言葉に、セバスチャンが大きく頷いたのを見て、私は喜びを爆発させた。
「ははっ、左様にございますな。美しく着飾ったマリア様の晴れ姿を、私もぜひ拝見させていただきたいものです」
「もちろんよセバスチャン。ここまでよくみんなをまとめてくれたわね。あなたは本当に有能な執事よ。当然お父さまからも褒美があるでしょうけど、まずは私からの褒美として一番最初にドレス姿を見せてあげるわ」
「はっ、ありがたき幸せにございます!」
セバスチャンが美しい礼をすると、
「やりましたねマリア様!」
アイリーンが見計らったようにすすっと前に出てきて、そんなことを言いやがった。
「ああアイリーン、そう言えばあんたもいたんだっけ。紅茶をいれた以外に何もしていないから、いたことすら忘れていたわ。特にあんたに言うことはないから下がっていいわよ」
「ううっ、酷いです……」
「文句があるなら、なにかしら私に貢献してから言いなさいこの使えないグズ!」
「はい、すみませんでした……でもそういう無能にはとことん容赦ないマリア様も素敵です♪」
私に罵倒されたっていうのに、なぜか頬を染めるアイリーン。
ひいぃっ!?
こいつやっぱりいろいろとおかしいわ!?
いやほんとマジな話!
私はそのことを図らずも再確認させられてしまった。
とまぁこうして。
私は絶体絶命の大ピンチから脱することができたのだった。
「ふぅ、やれやれ。今回ばかりはさすがに万事休すかと思ったけど、こんな奇跡が起こるだなんて、やっぱり私は神様に愛された選ばれしスーパーセレブよね!」
後にこの一件は、聖女マリア=セレシアを守った民衆の壁――「ウォール・マリア」と呼ばれるようになるのだとかなんとか。
「今度は何が起こるというのだ?」
「俺が説明するのは野暮ってなもんだ。なぁにすぐに分かるさ。後は起こってからのお楽しみということで」
アルツハウザー卿が悪だくみをする子供のようにニヤリと笑った。
それからしばらくすると屋敷を囲んでいた王国軍に動きがあった。
「見て見てセバスチャン! 屋敷を取り囲んでいた王国軍が、武器を捨てて投降し始めたわ!」
「そのようですな……!」
同時に大きな声が聞こえてきた。
「ここにいる全王国軍兵士に告ぐ! 既に国王陛下は退位され、王太子殿下が新たな国王とおなり遊ばされた! 同時にマリア=セレシアを国家反逆罪の疑いで捕らえよとの王命も取り消されている! 繰り返す! 既に国王陛下は退位され――」
声の主は、光り輝く白銀に赤の意匠が施された美しい鎧を着た、白馬に乗った騎士――近衛騎士だった。
「ねえセバスチャン、国王陛下が退位されたの?」
「なるほど。そういう落としどころですか」
「えっと、どうゆうこと?」
イマイチ要領を得ずに首を傾げた私に、セバスチャンが説明をしてくれる。
「王都で民衆が蜂起しただけなら――確かに大きな問題ではありますが――しかし単なる国内問題として済ませられます」
「ふむふむ」
「ですがマリア様をめぐってシュヴァインシュタイガー帝国からも強力な圧力をかけられてしまったとなると、これはもう外交問題へと発展してしまったのです。下手をすれば国家の存亡すら危うくなることでしょう」
「まぁそうよね。なにせシュバインシュタイガー帝国は大陸最大の超大国だもの。その気になればこの国を亡ぼすくらいは余裕よね」
大陸中の国家全てを同時に相手にしても、単独で勝てると言われるほどに圧倒的な超大国。
それが覇権国家シュヴァインシュタイガー帝国なのだから。
「かといって、これだけの一大事を今さら『なかったこと』になどできません。最早どうしようもなくなった国王陛下は、自らの退位と引き換えに、今回の一件を不問に付してもらおうと考えたのでしょうな」
「なるほどね、よくわかったわ。そしてそれはつまり、私は無事に生き延びたってことよね!?」
「そういうことにございますな。おめでとうございますマリア様」
「や、や、や…………やったわ!! これで今日届く新作の着物ドレスを着れるじゃない!」
確認するように問いかけた私の言葉に、セバスチャンが大きく頷いたのを見て、私は喜びを爆発させた。
「ははっ、左様にございますな。美しく着飾ったマリア様の晴れ姿を、私もぜひ拝見させていただきたいものです」
「もちろんよセバスチャン。ここまでよくみんなをまとめてくれたわね。あなたは本当に有能な執事よ。当然お父さまからも褒美があるでしょうけど、まずは私からの褒美として一番最初にドレス姿を見せてあげるわ」
「はっ、ありがたき幸せにございます!」
セバスチャンが美しい礼をすると、
「やりましたねマリア様!」
アイリーンが見計らったようにすすっと前に出てきて、そんなことを言いやがった。
「ああアイリーン、そう言えばあんたもいたんだっけ。紅茶をいれた以外に何もしていないから、いたことすら忘れていたわ。特にあんたに言うことはないから下がっていいわよ」
「ううっ、酷いです……」
「文句があるなら、なにかしら私に貢献してから言いなさいこの使えないグズ!」
「はい、すみませんでした……でもそういう無能にはとことん容赦ないマリア様も素敵です♪」
私に罵倒されたっていうのに、なぜか頬を染めるアイリーン。
ひいぃっ!?
こいつやっぱりいろいろとおかしいわ!?
いやほんとマジな話!
私はそのことを図らずも再確認させられてしまった。
とまぁこうして。
私は絶体絶命の大ピンチから脱することができたのだった。
「ふぅ、やれやれ。今回ばかりはさすがに万事休すかと思ったけど、こんな奇跡が起こるだなんて、やっぱり私は神様に愛された選ばれしスーパーセレブよね!」
後にこの一件は、聖女マリア=セレシアを守った民衆の壁――「ウォール・マリア」と呼ばれるようになるのだとかなんとか。