「しかしながら、それはそれで腑に落ちませんな。王家直属の特務騎士であるアルツハウザー卿が、何よりも重要視するはずの王命に背くというのはいかなることでしょうかな?」

 セバスチャンが問いかけた。

「つまり『ヘル・ハウンド』も一枚岩じゃないのさ。俺たち一派は国王陛下ではなく、第二王女殿下から密命を受けて動いている」

「第二王女殿下から?」

 第二王女!?
 ってあれじゃん!
 私が独占していた着物と技術を奪ったやつじゃん!
 くっそー、あのことは私まだ許してないんだからね。

「第二王女殿下はマリア様をお救いするようにと我らに密かに命じられたのだ」

 くうっ!?
 なんでか知らないけど、こうやって助けてくれるっていうんなら、まぁ仕方ないから百歩譲ってあんたのことは許してやるわ。
 寛大なスーパーセレブの私に感謝することね!

「それでこの騒ぎというわけですか」

「民衆に声をかけて回ったらすぐだったよ。さすがは高名な聖女マリア=セレシア様だと感心したもんだ」

「屋敷を取り巻く輪が膨大に膨れ上がったのを確認した時は、ついに天命も尽きたかと思いましたが、おかげで助かりましたぞ」

「おっと。驚くのはまだ早い。まだまだ、これだけじゃないぞ?」
「と言いますと?」

「シュヴァインシュタイガー帝国が、我が国との国境沿いに青狼騎士団を展開しつつある」

「青狼騎士団を!?」
 思わず、といった様子でセバスチャンが大きな声を上げた。

 でもそこでさすがに私は話についていけなくなって、セバスチャンに質問をすることにした。

「ねぇねぇセバスチャン、青狼騎士団ってのはなんなの?」

「紛争や内乱が発生した時に即座に初期対応を行うための、シュヴァインシュタイガー帝国が誇る最精鋭の騎兵部隊にございます」

「な、なんでそんなすごい部隊が動いてるの!?」

「強大な軍事力を使って、マリア様に危害を加えることは許さないと国王陛下に対して強烈な圧力をかけてくれているのでしょうな」

「えーと? なんでシュヴァインシュタイガー帝国が私にそんなことをしてくれるのかしら?」

 意図がわからなくて私は首を傾げた。

「少し前にマリア様が、ご友人であるコーデリア様とシュヴァインシュタイガー帝国皇太子殿下の恋の仲を取り持ったことがあったかと思います」

「え? ああ、そう言えばそんなこともあったかしらね」

 コーデアリアを冴えない貧乏貴族の息子と結婚させてやろうと思ったら。
 なんとその男はシュヴァインシュタイガー帝国皇帝の隠し子――皇太子だったのだ。

 そしてコーデリアを追い落とすはずが、あろうことかコーデリアは大陸最大の超大国の皇太子妃になってしまったのだ。

 あまりにもムカつく出来事だったから、記憶から完全に抹消してしまっていたわ。
 っていうか!
 今思い出してもムカつくわ……!!

「他にも七選帝侯(セブン・アインズ)のトラヴィス公爵のご子息をお助けした一件もあったかと。かように大恩あるマリア様を助けるために、国境沿いに最精鋭部隊を展開するという最大の外交圧力をかけてくれたのでしょうな」

「はぁ、なるほどね~」

 コーデリアはたしかにムカつく女だわ。
 でもでも、こうやって私を助けてくれたのよね。

 オッケー、分かったわ。
 今回に限っては100万歩譲ってあのことは水に流してあげるから!
 私はスーパーセレブだから心が広いんだもの。