「ですがこれは成功確率がある程度見込まれる作戦で、他に代わりとなるような策もございません。こういうことはあまり言いたくはありませんが、セレシア侯爵家令嬢であられるマリア様のお命と、一メイドに過ぎないアイリーンの命とでは命の価値が違います」

 しかし私が嫌だと言ったにもかかわらず、セバスチャンが異論を唱え、

「そうです! 私の命なんてマリア様の命に比べたら安いものです! マリア様が気に掛ける必要なんてこれっぽっちもございませんので!」

 アイリーンもそれに追従する。

「お黙りなさい、異論は認めないと言ったでしょう! あんたと私が入れ替わる替え玉作戦なんて、私は天地が翻っても認めないんだから!」

「ですが――」

「たかが専属メイドが私に口答えしないで! ここで一番偉いのは私よ! ここでは私の意見が絶対なのよ! 今までも、今現在も、そしてこれからもずっと!」

 私の言葉にアイリーンが完全に沈黙する。 

「マリア様、少し落ち着いて冷静に考えてみて下さい。これは極めて有効な――」
 そしてなおも食い下がろうとするセバスチャンにむかって私は言った。

「だいたいセバスチャン。私の言葉をなんとしてでも形にしてみせるのが、あなたに与えられた役目ではなくて?」

「…………」
 私の『正論』の前にセバスチャンが押し黙る。
 そんなセバスチャンに私は優しく語りかけた。

「ねぇセバスチャン? 私は別にあなたを責めているわけではないの。あなたならできると信じているのよ」

「…………」

「お父さまはあなたにこそセレシア家筆頭執事は相応しいと、その栄えある地位を与えたのよ? だったらその地位に見合うように、私の期待に応えるべくパーフェクトな解決策を提示してみせるのが、あなたの仕事ではないかしら? ね、違う?」

 いやほんとね?
 マジで私は使用人の格好をすることだけは絶対に嫌なんだからね?
 マジでこれだけは許容できないんだからね?
 私のプライドが絶対に許さないんだからね?

 だからお願いセバスチャン!
 何かそれ以外の素敵な一発逆転の作戦を思いついてちょうだい!
 あなたならできるわ!
 私信じてるから!!

 セバスチャンはしばらく無言で立ち尽くしてから、言った。

「……まったくもってマリア様の仰る通りですな。そういうわけなのでアイリーン、あなたの提案した替え玉作戦は申し訳ありませんが却下とします。その命はまた、別の形でマリア様のために使うように」

「はい、承知いたしました。それとありがとうございました、マリア様」

「? なんであなたが感謝するの?」
 ほんと変な子ね、あんたって。

 とまぁそういう感じで話は進んで。
 セバスチャンはなんとか策をひねり出してくれたのだった。

 詳しくは聞いてないもののざっくり大まかに言うと。

 屋敷の一番上の階の角部屋が会議とかができる大きな広間になってるんだけど。
 そこが頑丈な作りで防御に適してるらしくて、そこへ続く階段と廊下、下のフロアを全部落として陸の孤島にして、籠城戦をするらしい。

 なんとか粘って時間を稼いで、その間にお父さまが救援に来てくれるのを待つんだって。

 それでも実際かなり厳しい上に、屋敷に火をつけられたら一巻の終わりらしい。
 ただセバスチャンの見立てでは、裁判にかけるために生きたまま私の身柄が欲しいはずだから、火をつけることは多分ないだろうって話だった。

 というわけで私は運命の翌朝を迎えたのだった――!