それから本番まではクラス一丸となってみんなで練習をした。

 文学少女だけあって、リプニツカヤは劇や物語の作り方や演出の仕方をすごくよく知っていた。
 そして熱心にセリフを手直ししたり、舞台での効果的な話し方を教えてくれたり、素敵な演出を組み込んだりと色んなアドバイスをしてくれたのだ。
 セリフも全部覚えちゃってるみたいで、セリフの掛け合いの練習相手にもなってくれる。

「あの、マリア様……ここは敢えて少し感情表現を抑えることで、ヒロインの秘めた強い想いが観客により伝わるのではないでしょうか……?」

「ふんふん、なるほどね。とても素敵な意見だわ、採用よ!」

 うんうん。
 あなたのその素敵な才能は、私がヒロイン役として目立つために全て惜しみなく使ってあげるから、安心して私を盛り立ててちょうだいね!

 ちなみに。
 なんで急にヒロイン役に立候補したのか、練習の合間に暇つぶしに聞いてみたら、

「お母さんが働かなくてよくなったから、新しいお父さんと一緒に演劇祭を見に来てくれるって言ってて……だからいいとこ見せたいなって……。お母さんは昔劇団でヒロイン役をいっぱい演じていた女優だから、私もやったら喜ぶだろうなって思って……」

「あら、そうだったんですのね。ごめんなさい、私ぜんぜん存じ上げませんで。そういうことでしたら、今からヒロイン役を替わって差し上げましょうか?」

 心にもないことをしれっという私。
 もちろんヒロイン役をリプニツカヤに譲ってやるつもりなんて、私にはさらさらない。

「そんな、滅相もないです……マリア様は毎日いっぱい練習されておられますし、ヒロイン役にはマリア様が一番の適任だと思ってますので……私はやっぱり人前に出るのが苦手で、だから裏方の方が合ってるんです……」

 そして奥手なリプニツカヤがこんな風に返してくることも当然分かっていたので、

「そう? あなたがそう言うのならいいんですけど……」

 私は少し申し訳なさそうな顔を作りながら――もちろん内心ではにんまり笑いながら――そう答えたのだった。

 くくく、さすが私ね。
 クラスメイトたちの優しいマリア=セレシアイメージをアップさせつつ、ヒロイン役に未練はないっていうリプニツカヤの言質もとるなんてお手の物だわ。

 これで不安要素は完全になくなったし。
 後はしっかりと練習して演劇祭本番に臨むだけね。

 それにしてもリプニツカヤは、すっかり元の陰キャちゃんに戻っちゃったわね。
 これならイチイチ言質をとっておく必要もなかったかな?

 とまぁそうして演劇祭の本番当日を迎えたんだけど――。