「ナスターシャ、あなたはクビよ。手切れ金を上げるから、荷物をまとめて今すぐ出ていきなさい」

 お父さまが出張でしばらく家を空けている間に、私は専属メイドのナスターシャを呼びつけると声高に言い放った。

「え……」
「聞こえなかったの、このグズ!」

「あの、マリア様……?」
「どうやら頭だけでなく耳も悪いようね。私は今すぐ荷物をまとめて出ていけと言ったんだけど?」

「なぜでしょうか……」
「あら、私があなたを解雇するのに理由なんていらないの。知らなかった?」

 ふふん、と勝ち誇った顔で私は言った。

「……分かりました。お暇をいただきます。今までお世話になりました……」

 ふぅ、やれやれ。
 ついにこのいけ好かない女をクビにしてやったわ。

 あどけなく可愛らしい顏。
 大きなおっぱい。
 なのに腰はきゅっと美しくくびれていて。
 性格は抜群に良くて、いつも笑顔を絶やさない。
 仕事もできる。

 なんなのこの女。
 こんなむかつく女見たことないんだけど?

 解雇を告げられたナスターシャはというと涙ぐんでいた。

 そりゃあそうだろうね。
 誉れ高き名門セレシア侯爵家は、なんだかんだで使用人への給料の支払いも他所とは別格に高いのだ。

 確かこの女は貧乏庶民の生まれで、稼ぎの大半を実家に仕送りしていたはずだ。
 それができなくなる上にいきなり無職になるのだから、その心境たるや、

「あふぅ、想像するだけでお腹いっぱいになっちゃいそう(笑)」


 ~~後日。


「マリア様、ナスターシャから手紙が来ております」
 部屋でお気に入りのロマンス小説を読んでいた私のところに、執事のセバスチャンがナスターシャからの手紙をもってやって来た。

「あらまぁ楽しみね。どんなことが書いてあるのかしら?」

 圧倒的な高みから、弱者の恨みつらみを聞くのはとても気分がいいものね!
 私はそういうのがとっても大好きなんだから!

 にまにまと喜び勇んで手紙を開いた私の目に飛び込んできたのは――、

『母が病で倒れて介護が必要になったのに、同僚に迷惑をかけると思って言い出せなかった私を、わざと悪役を演じて実家に帰してくれたこと、感謝してもしきれません』

 …………はぁっ?

『頂いた手切れ金のおかげで高価な薬も手に入り、母の病も持ち直しました。当分は母を看病しながら実家で静かに暮らそうと思っています。このご恩は一生忘れません』

 的なことが書いてある文面だった。


「ふぅむ。誰も察せなかった使用人の思いにまで心を配られるとは、さすがはマリア様ですな。恥ずかしながらわたくしめも、ナスターシャの気持ちに気付けませんでした」

「……」

「この話を耳にされれば、お館様(セレシア侯爵=マリアのお父さん)もたいそうお喜びになられることでしょう」

「…………」
「マリア様? どうされましたか?」

「………………どうしてこうなった?」

 ねぇねぇそこのあなた。
 ちょうどいいわ。

 参考程度にちょっとあなたの意見を聞かせてくれないかしら?