「本日のコンテストで、マリア様が私に0点を付けたと聞きました。私の歌のどこがいけなかったのでしょうか?」
ちっ、孤児院育ちの貧民のガキんちょの分際で、このセレシア侯爵家令嬢の私にイチイチ文句を言いに来やがったわね?
これだから身の程を知らない貧乏人の子供は嫌なのよ。
だから私は言ってやった。
「そんなことイチイチ言わなくてもあなたが一番分かっているでしょう? あなたの心に聞いてみなさいな。もしそれが分からないと言うのなら、あなたは次も0点よ」
ふぅ、やれやれ。
なんて完璧で無敵なロジックなのかしら。
分からないから0点なの――やだもう! 我ながら最高の返しじゃないの!
これなら私は0点にした理由を考える必要がないし。
この子はどれだけ考えても0点になった答えには行きつけないから、彼女自身の問題ということで私の行為が問題になることもない。
リーザ。
絶対に答えの出ない迷いの森で、永遠に迷い続けなさいな(笑)
なーんてことを思いながら私は内心にやにやしていたんだけど――。
「やはり分かってしまうのですね」
突然リーザがポツリと言うと、その両の瞳から大粒の涙をこぼし始めた。
「えっ!?」
「そうです。マリア様の仰る通りです。私は今日初めて邪な心で歌を歌いました。これで優勝したら、奨学金を貰って音楽家になって、貧しい生活から抜け出せるんじゃないかって。そんなことを思いながら今日の私は歌ってしまったんです。きっとそれがマリア様に伝わってしまったのですね……」
「えっ、あー……えっ?」
「今、マリア様に指摘されて、わたしは己の心の薄汚さに改めて気付くことができました」
「う、え、あ、ん?」
「こんな醜い心で歌った歌で優勝しようだなんて思ったさっきの自分を、私は今、心の底から恥じています。私にはっきりと0点という点数をつけていただき、本当にありがとうございました。これからは心を入れ替えて、真摯に歌に取り組もうと思います」
「えっと、あ、うん。その、分かればいいのよ分かれば」
なんか想定と違った展開なんだけど、ま、まぁいいわ。
しかし。
想定違いはこれで終わりはしなかった。
「さすがは噂に名高いマリア様だ」
「歌を一曲聞いただけで、その者の抱える心の内まで見抜いてしまわれるとは、その慧眼たるやもはや神のごとし!」
「我々はプロと自負しながら、見た目の技術ばかりに目が行ってしまい、芸術とはなんたるかという最も大事なことを見失っていたようですな」
「どうやらそのようですな」
「心が洗われたようです」
「まったくもってお恥ずかしい限りじゃ」
「え、あ、はい。そうなんですか」
その道のプロたちが、私の口から出まかせを次々と賞賛し始めたので、私はとりあえず曖昧に頷いて同意しておくことにした。
そしてさらに状況は私の想定外の方向へと進んでいく。
「ところで皆さまに提案があるのだが」
「なんですかなマエストロ・ミューズ」
「リーザは私に預からせてもらえないだろうか」
「なっ!? マエストロ・ミューズが!?」
「滅多なことでは弟子を取らないというマエストロ・ミューズが、この子を弟子に取ると言うのですか!?」
「これも何かの縁でしょう。今日、私は私の音楽が真の音楽にはまだ至っていないことを、マリア様と少女リーザに教えられたのです。音楽に生きる者として、私には恩を返す義務がある」
「本当ですかマエストロ・ミューズ! 私を弟子にしていただけるのですか?」
それを聞いたリーザが、信じられないって顔をする。
「本当さ。君が本当の音楽家になった時、きっと私の音楽は真の意味で完成するのだ。今日マリア様とリーザと出会えたことで、私はそう確信するに至った。うむ、今日と言う日はなんと素晴らしい日だろうか。世界の音楽を愛する人々に幸あれ!」
マエストロ・ミューズの掛け声に、
「「「「「世界の音楽を愛する人々に幸あれ!」」」」」
私を除いたここにいる全員が唱和して、会場は最後の最後で今日一番の盛り上がりを見せたのだった。
「……どうしてこうなった? いやほんと、どうしてこうなった?」
ちっ、孤児院育ちの貧民のガキんちょの分際で、このセレシア侯爵家令嬢の私にイチイチ文句を言いに来やがったわね?
これだから身の程を知らない貧乏人の子供は嫌なのよ。
だから私は言ってやった。
「そんなことイチイチ言わなくてもあなたが一番分かっているでしょう? あなたの心に聞いてみなさいな。もしそれが分からないと言うのなら、あなたは次も0点よ」
ふぅ、やれやれ。
なんて完璧で無敵なロジックなのかしら。
分からないから0点なの――やだもう! 我ながら最高の返しじゃないの!
これなら私は0点にした理由を考える必要がないし。
この子はどれだけ考えても0点になった答えには行きつけないから、彼女自身の問題ということで私の行為が問題になることもない。
リーザ。
絶対に答えの出ない迷いの森で、永遠に迷い続けなさいな(笑)
なーんてことを思いながら私は内心にやにやしていたんだけど――。
「やはり分かってしまうのですね」
突然リーザがポツリと言うと、その両の瞳から大粒の涙をこぼし始めた。
「えっ!?」
「そうです。マリア様の仰る通りです。私は今日初めて邪な心で歌を歌いました。これで優勝したら、奨学金を貰って音楽家になって、貧しい生活から抜け出せるんじゃないかって。そんなことを思いながら今日の私は歌ってしまったんです。きっとそれがマリア様に伝わってしまったのですね……」
「えっ、あー……えっ?」
「今、マリア様に指摘されて、わたしは己の心の薄汚さに改めて気付くことができました」
「う、え、あ、ん?」
「こんな醜い心で歌った歌で優勝しようだなんて思ったさっきの自分を、私は今、心の底から恥じています。私にはっきりと0点という点数をつけていただき、本当にありがとうございました。これからは心を入れ替えて、真摯に歌に取り組もうと思います」
「えっと、あ、うん。その、分かればいいのよ分かれば」
なんか想定と違った展開なんだけど、ま、まぁいいわ。
しかし。
想定違いはこれで終わりはしなかった。
「さすがは噂に名高いマリア様だ」
「歌を一曲聞いただけで、その者の抱える心の内まで見抜いてしまわれるとは、その慧眼たるやもはや神のごとし!」
「我々はプロと自負しながら、見た目の技術ばかりに目が行ってしまい、芸術とはなんたるかという最も大事なことを見失っていたようですな」
「どうやらそのようですな」
「心が洗われたようです」
「まったくもってお恥ずかしい限りじゃ」
「え、あ、はい。そうなんですか」
その道のプロたちが、私の口から出まかせを次々と賞賛し始めたので、私はとりあえず曖昧に頷いて同意しておくことにした。
そしてさらに状況は私の想定外の方向へと進んでいく。
「ところで皆さまに提案があるのだが」
「なんですかなマエストロ・ミューズ」
「リーザは私に預からせてもらえないだろうか」
「なっ!? マエストロ・ミューズが!?」
「滅多なことでは弟子を取らないというマエストロ・ミューズが、この子を弟子に取ると言うのですか!?」
「これも何かの縁でしょう。今日、私は私の音楽が真の音楽にはまだ至っていないことを、マリア様と少女リーザに教えられたのです。音楽に生きる者として、私には恩を返す義務がある」
「本当ですかマエストロ・ミューズ! 私を弟子にしていただけるのですか?」
それを聞いたリーザが、信じられないって顔をする。
「本当さ。君が本当の音楽家になった時、きっと私の音楽は真の意味で完成するのだ。今日マリア様とリーザと出会えたことで、私はそう確信するに至った。うむ、今日と言う日はなんと素晴らしい日だろうか。世界の音楽を愛する人々に幸あれ!」
マエストロ・ミューズの掛け声に、
「「「「「世界の音楽を愛する人々に幸あれ!」」」」」
私を除いたここにいる全員が唱和して、会場は最後の最後で今日一番の盛り上がりを見せたのだった。
「……どうしてこうなった? いやほんと、どうしてこうなった?」