バァン!

 派手に音を立てて扉を開き、鼻息も荒く講演会場へと乗り込んだ私は、

「あんたみたいな俗物が、よくもまぁそんなことを言えたものね!」

 壇上で文化振興について偉そうなことを語っていた文化庁長官に向かって開口一番、啖呵を切った。

「な、何者だ貴様! 文化庁長官であるこの私の講演中になんたる無礼か! 今すぐ出て行け!」

 文化庁長官は気持ちよくしゃべっていたところを邪魔されて怒りの言葉をぶつけてきたんだけど、

「無礼なのは貴様の方だ長官! 口を慎まんか! こちらにおわすお方をどなたと心得る。畏れ多くも名門セレシア侯爵家ご令嬢マリア=セレシア様にあらせられるぞ!」

 セバスチャンがなんかやけにカッコイイ紹介をしながら一喝してくれた。
 すると、

「あれがセレシア侯爵家のマリア様か」
「孤児院で痛烈な社会風刺を見せつけ、社会の偽善を糾弾したというマリア様だ!」

「専属メイドを次々と良家に嫁がせる、とても使用人想いのお優しいお方だとも聞くぞ」
「貧しさで夢を諦めかけた友人の才能を見抜いて支援し、大陸一のトップデザイナーへと押し立てた話も有名だな」

「高潔で美しく、自己犠牲と慈愛に満ちた心から、庶民の間では聖女と呼ばれ崇拝にも似た絶大な人気を誇っているあのマリア様がどうしてここに?」

「聖女マリア様が文化庁長官に物申しに来たということか?」
「一体どういうことだ?」
「文化庁長官が何かしたのか?」

 なぜか会場が一斉にざわつき出した。
 まぁいいわ、今はそんな些細なことはどうでもいいから。

「あなたが文化庁長官ね? まどろっこしいのは嫌いだから単刀直入に言うわよ。あなた、賄賂を貰ってマナシーロ=カナタニア先生の『星海の記憶』最終巻を出版停止にしたでしょ! 何てことしてくれたのよこの馬鹿! 許すまじき権力濫用よ!」

 私はズバリ指摘した。

「な……なんのことですかな?」
「まさか、しらばっくれる気なのかしら?」

「し、しらばっくれるも何もまったく身に覚えがありませんので……」
「はぁ? 覚えあるでしょ! とっとと自白しなさい!」

 私は可及的速やかにあんたを処断して、早く『星海の記憶』の最終巻が読みたいの!!
 だからとっとと吐けや!

「し、知りませんなぁ……そこまで言うからには、なにかしらの証拠があるのでしょうな?」

 い、い、い……イラぁッ!!!!!!

 素直に非を認めればサクッと終わるのに!
 そうしたら早く『星海の記憶』の最終巻が読めるのに!
 だっていうのに、いちいちこの私に余計な手間をかけさせやがってコンニャロウ……!

 文化庁長官の白々しい態度に私は完全に切れてしまった。

「せっかく自ら罪を認めるチャンスを与えてあげたっていうのに……もういいわ。セバスチャン」

 私がその名を呼ぶと、有能なる執事は一人の男を引っぱるようにして連れてきた。
 その顔を見た途端に文化庁長官の顔色が目に見えて変わる。

「なっ!? お前は出版社の社長!? どうしてお前がここにいる! まさかしゃべったのか!?」

 それもそのはず。
 私がセバスチャンに連れてこさせたのは、文化庁長官に賄賂を贈ったライバル出版社の社長だったのだから。