「あー、暇……。ねぇアイリーン、まだ着かないの?」

 馬車の中で、靴を脱ぎ捨て足を投げ出しただらけきった姿で、私はぼやいた。
 というのも、もうかれこれ3時間も馬車に揺られっぱなしだからだ。

 せっかく遠路はるばる、大陸最大の覇権国家シュヴァインシュタイガー帝国までやって来たっていうのになぁ。

 連れてきてくれたお父さまが急遽、シュヴァインシュタイガー皇帝陛下から謁見する栄誉を賜ったのだ。
 そのせいで「東の辺境」とかいう超がつくド田舎に、私がお父さまの名代として視察に行かないといけなくなったんだけど。

 だから私が行ってもなんにもできないんだってば。
 いい加減わかってよ?

 行っても何もできないのに、それでも名前だけで行かないといけない私って、マジ可哀そうすぎない?

「到着はまだまだ先のようですね。今ちょうど行程の半分を超えたくらいかと」
「うえぇっ、まだ半分を超えたところ? マジくっそだるいんですけど……」

「マリア様、少々お言葉遣いが乱れ過ぎておりますよ」
「あんたと私しかいないんだから、あんたが黙ってればバレないでしょ。つまりバレたらあんたのせいだからね」

「それならどうぞご安心くださいませ。私はマリア様を裏切るような真似は決して致しませんので」

 まぁなんだかんだでアイリーンは忠誠心にあついから、私も素が出せちゃうんだよね。
 こんな姿をもしメイド長が見でもしたら卒倒しちゃうよ。
 そう言う意味では、私もアイリーンのことをそれなりに信用してるんだろうなぁ。

 それはそれとして。

「あーあ、こんな森の中の街道を何時間もずっと走ってるだけとか、恥ずかしくてみんなに話せないんだけど……帝都の有名ブランドショップの本店で、棚の端から端まで大人買いショッピングしたかったなぁ……みんなへのお土産どうしよう……」

 あーあ、もういいや。
 寝ちゃおう、うん。
 起きてるのもアホらしいし。

 私がそう心の中で決めた時だった――馬車が急に停止したのは。

「ん? ちょっとどうしたのよ、こんなところで止まって? 着くのが遅れるでしょ」
 小言を言った私に、

「お嬢さま、あれを――」
 専属メイドのアイリーンが何かに気付いて馬車の窓から前方を指差した。
 その先には、

「なにあれ? 馬車がこけてるの?」
 馬車が1台、街道脇で横倒しになっていたのだ。

 すぐに御者と護衛を務める老執事のセバスチャンが、

「おそらくですが野盗に襲われたのだと思われます。状況から見てまだそう時間はたっておりません。この先で鉢合わせる危険を避けるために、少し戻って迂回いたしましょうか?」

 御者台との間を繋ぐ小窓を開けて声をかけてくる。

「迂回ですって? 下等な野盗ごときに怯えて、なんでこの私が道を変えないといけないのよ……! もちろんこのまままっすぐ進むわよ。不愉快なゴミどもは見つけ次第、蹴散らしなさい!」

 迂回なんてしたら、着く時間がさらに遅くなっちゃうじゃないの!!

「御意に。速やかに障害を排除いたします。総員、第一戦闘準備! マリア様の行く手を阻む野盗を見つけ次第、完膚なきまでに殲滅せよ!」


 …………

 ……


 街道の先にいた野盗の一団を斥候が発見→強襲からの殲滅戦は、ものの10分で私たちの圧倒的大勝利に終わった。