話は、雨の日に仔猫を引き取ってくれたミナトと別れた後に戻る。
ミナトと別れた私は、
「ちっ、やっと来たわね……」
遅れに遅れてやっとこさ到着した馬車にむかって、肩を怒らせて歩いていった。
するとなぜか御者の隣にアイリーンが座っている姿が目に入る。
「? なんであの子、馬車の中じゃなくて、わざわざ雨が降ってるのに外に出てるわけ?」
本降りの雨のなかを外にある御者台にいたんだから、アイリーンはずぶ濡れだ。
「ま、あの子がおかしいのはいつものことか……考えるだけ無駄ね」
わたしは深く考えるのをやめた。
そんなことより、これからするオシオキのことを考える方がよっぽど楽しいもんね。
「くふふふ……どうやってアイリーンに詫びを入れさせようかしら? ま、なにを言っても許さないんだけど(笑) 久しぶりにいびり倒してやるんだから」
私は、
「マリア様! 遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした!」
馬車が停止して早々、御者席から飛び降りて大きく頭を下げたアイリーンに、まずは一言ガツンと言ってやろうとして、
「アイリーン、なんであなたはそんなに泥だらけなの?」
思わずそんな風に聞いてしまった。
だってセレシア家のメイドである証、由緒正しきミニスカメイド服がそれはもう泥にまみれて汚れていたんだもん。
よく見ると御者の着ている雨よけコートにも、泥を落とした跡があるみたいだし。
「実は、かくかくしかじかでして――」
今日ここに来るまでに何があったのか、アイリーンが説明を始めた――。
「はぁ……つまり名もなき旅人が倒木に挟まれてしまっていて。それを助け出そうとしたせいで、私を迎えに来るのがこんなにも遅れたと?」
「仰る通りにございます」
む、む、む……むかーーっ!!(怒)
「あのね! 私が待たされた時間とその旅人の命と、どっちが大事なわけ? 旅人の一生、わたしの一秒なのよ! 覚えておきなさいこのグズ!」
「誠に申し訳ありませんでした……」
雨が降りしきる中、私の怒声を浴びたアイリーンは傘もささないまま深々と頭を下げた。
「はぁ……で?」
「な、なにがでしょうか?」
頭を大きく下げたままで降りしきる雨に打たれながら、アイリーンが困惑したように答える。
「だからその旅人ってのは助かったんでしょうね?」
「はい、足首の骨折だけですんで命に別状はありませんでした」
「ならいいわ」
「……え?」
私の言葉にアイリーンが驚いたように顔を上げる。
「ならいいと言ったのよ。いつまでもこんな雨の中にいたくないから、さっさと帰るわよ。私は雨が嫌いなの」
「……お嬢さまはやっぱりお優しいですね」
「ん? なにか言ったかしら?」
「いいえ、なんでもありません♪」
アイリーンが一体なにを言いたいのかよくわからないんだけど?
なにせ私の貴重過ぎる時間を奪ったんだもの。
せめて生きてくれていないと、私の時間が無駄に浪費されただけになっちゃうじゃない!
それもう本気で許せないから!!
「ああそれと、なんであんたは外にいたのよ? 泥だけじゃなくて雨でずぶぬれになって、酷いことになってるじゃない。馬鹿なの?」
「それはもちろん、お嬢さまの過ごされる馬車の中を、雨水や泥で汚すわけにはまいりませんので」
……なんなのこいつ。
本物の馬鹿でしょ。
「……来なさい、遅れたオシオキよ」
しかし理由はどうあれ私を一時間も待たせるという大チョンボをしでかしたのだから、私が怒るのは当然だし、私は雇い主としてこいつに罰を与える必要があった。
だから私はすぐ目の前まで来たアイリーンに、
ピコン。
軽くおでにこデコピンをしてやった。
「お嬢さま、これは……」
「ふん、今回だけは特別にこれで不問に付してあげるわ。でも2度目はないからね。私は待たされるのが大嫌いだから」
「ですが……」
「ねぇアイリーン? たかが雇われメイドの分際で、私に同じことを2度も言わせないで?」
「失礼いたしました。お心遣い、感謝いたします」
「ふん。じゃあ帰るわよ。ほら、つっ立ってないでさっさと馬車の中に入りなさい。このままだと風邪を引くでしょう、タオルで拭いてあげるわ」
「いえ、お嬢さまにそこまでしてもらうわけには――」
「あのね、あんたのためにする訳ないでしょ。専属メイドに風邪を引かれてうつされでもしたら、私が困るのよ」
「お嬢さま……ありがとうございます」
「あんたのためじゃなくて私のためだって言ってるでしょ。いいからさっさと乗りなさい。ただでさえ1時間も待たされてイライラしてるんだから」
あーもう!
調子狂うなぁ。
だから雨は嫌いなんだよ。
お気に入りの靴は汚れちゃうし、せっかくセットしたゆるふわの髪がぺたんと寝ちゃうし。
ついでに柄にもないことまで言っちゃうし。
ほんとさいあく。
雨なんかだいっきらい!
ミナトと別れた私は、
「ちっ、やっと来たわね……」
遅れに遅れてやっとこさ到着した馬車にむかって、肩を怒らせて歩いていった。
するとなぜか御者の隣にアイリーンが座っている姿が目に入る。
「? なんであの子、馬車の中じゃなくて、わざわざ雨が降ってるのに外に出てるわけ?」
本降りの雨のなかを外にある御者台にいたんだから、アイリーンはずぶ濡れだ。
「ま、あの子がおかしいのはいつものことか……考えるだけ無駄ね」
わたしは深く考えるのをやめた。
そんなことより、これからするオシオキのことを考える方がよっぽど楽しいもんね。
「くふふふ……どうやってアイリーンに詫びを入れさせようかしら? ま、なにを言っても許さないんだけど(笑) 久しぶりにいびり倒してやるんだから」
私は、
「マリア様! 遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした!」
馬車が停止して早々、御者席から飛び降りて大きく頭を下げたアイリーンに、まずは一言ガツンと言ってやろうとして、
「アイリーン、なんであなたはそんなに泥だらけなの?」
思わずそんな風に聞いてしまった。
だってセレシア家のメイドである証、由緒正しきミニスカメイド服がそれはもう泥にまみれて汚れていたんだもん。
よく見ると御者の着ている雨よけコートにも、泥を落とした跡があるみたいだし。
「実は、かくかくしかじかでして――」
今日ここに来るまでに何があったのか、アイリーンが説明を始めた――。
「はぁ……つまり名もなき旅人が倒木に挟まれてしまっていて。それを助け出そうとしたせいで、私を迎えに来るのがこんなにも遅れたと?」
「仰る通りにございます」
む、む、む……むかーーっ!!(怒)
「あのね! 私が待たされた時間とその旅人の命と、どっちが大事なわけ? 旅人の一生、わたしの一秒なのよ! 覚えておきなさいこのグズ!」
「誠に申し訳ありませんでした……」
雨が降りしきる中、私の怒声を浴びたアイリーンは傘もささないまま深々と頭を下げた。
「はぁ……で?」
「な、なにがでしょうか?」
頭を大きく下げたままで降りしきる雨に打たれながら、アイリーンが困惑したように答える。
「だからその旅人ってのは助かったんでしょうね?」
「はい、足首の骨折だけですんで命に別状はありませんでした」
「ならいいわ」
「……え?」
私の言葉にアイリーンが驚いたように顔を上げる。
「ならいいと言ったのよ。いつまでもこんな雨の中にいたくないから、さっさと帰るわよ。私は雨が嫌いなの」
「……お嬢さまはやっぱりお優しいですね」
「ん? なにか言ったかしら?」
「いいえ、なんでもありません♪」
アイリーンが一体なにを言いたいのかよくわからないんだけど?
なにせ私の貴重過ぎる時間を奪ったんだもの。
せめて生きてくれていないと、私の時間が無駄に浪費されただけになっちゃうじゃない!
それもう本気で許せないから!!
「ああそれと、なんであんたは外にいたのよ? 泥だけじゃなくて雨でずぶぬれになって、酷いことになってるじゃない。馬鹿なの?」
「それはもちろん、お嬢さまの過ごされる馬車の中を、雨水や泥で汚すわけにはまいりませんので」
……なんなのこいつ。
本物の馬鹿でしょ。
「……来なさい、遅れたオシオキよ」
しかし理由はどうあれ私を一時間も待たせるという大チョンボをしでかしたのだから、私が怒るのは当然だし、私は雇い主としてこいつに罰を与える必要があった。
だから私はすぐ目の前まで来たアイリーンに、
ピコン。
軽くおでにこデコピンをしてやった。
「お嬢さま、これは……」
「ふん、今回だけは特別にこれで不問に付してあげるわ。でも2度目はないからね。私は待たされるのが大嫌いだから」
「ですが……」
「ねぇアイリーン? たかが雇われメイドの分際で、私に同じことを2度も言わせないで?」
「失礼いたしました。お心遣い、感謝いたします」
「ふん。じゃあ帰るわよ。ほら、つっ立ってないでさっさと馬車の中に入りなさい。このままだと風邪を引くでしょう、タオルで拭いてあげるわ」
「いえ、お嬢さまにそこまでしてもらうわけには――」
「あのね、あんたのためにする訳ないでしょ。専属メイドに風邪を引かれてうつされでもしたら、私が困るのよ」
「お嬢さま……ありがとうございます」
「あんたのためじゃなくて私のためだって言ってるでしょ。いいからさっさと乗りなさい。ただでさえ1時間も待たされてイライラしてるんだから」
あーもう!
調子狂うなぁ。
だから雨は嫌いなんだよ。
お気に入りの靴は汚れちゃうし、せっかくセットしたゆるふわの髪がぺたんと寝ちゃうし。
ついでに柄にもないことまで言っちゃうし。
ほんとさいあく。
雨なんかだいっきらい!