「秋宮のやつ、まじでムカつくわあ」

 胡都のトラウマを作った顔も知らぬ人間の愚痴を溢せば、目の前から「わたしの友達の悪口言うな」と飛んでくる。

「え、美智の友達?」
「だってわたし、胡都と中学一緒だもん。なんなら保育園からずっと一緒」
「そうだったんだ。じゃあえっと」

 そいつってどんなやつなの、なんでそんなことしたの。胡都のこと、いつから好きだったの。

「秋宮は、いい人だったよ」

 質問を投げるよりも先に、美智が俺の『知りたいオーラ』を察してくれて、話す。

「最期はあんなことになっちゃったけど、秋宮はクラスの中心的存在で、よく喋るし面白いし、みんなに好かれてた。二年で胡都と同じクラスになってからさ、秋宮ずっと胡都のこと好きで追っかけてたんだけど、全然振り向いてもらえなくって。だけどそれでもめげなくて。ちょっとうちの学年の名物みたいになってた」

 柔らかく握った拳を口元へあて、美智がふふっと思い出し笑いなんてするから、俺の中にあった彼に対しての黒い感情が、少し薄れた。

「最期のその日もさあ、胡都が傘(ひら)いた途端に飛んできて、半ば強引に相合傘しちゃってさ。わたしはまた秋宮のアタックが始まったよ、くらいにしか思ってなかったんだけど、まさかホームについてまで、ずっと胡都に告ってたなんてね。あいつまじ、しつこいっつの」

 ふふっとまた、拳に笑いを溢す美智。

「きっと秋宮の中では、その日が最終期限だって決めてたんだね。いつまでも報われないこの恋路に今日こそ着地点を見つけてやるって、そんな風に思ってたのかもしれない」

 けれどその拳が(ほど)かれ、下ろされると、彼女は一転真顔になる。

「秋宮が死んだのはたまたまだよ。告白した場所がホームじゃなければ、彼はまだ生きてた」