床を元通りにした俺等は、向かい合って壁へもたれた。

「なんで胡都のこと、フったの?」

 数日前とは打って変わって、穏やかな美智の口調に出る本音。

「中学ん時の同級生が、電車に()ねられた話を聞いた。トラウマのせいで俺の告白断れなかったんだーって思ったら、なんか悲しくなって。んで、別れてあげなきゃって思って」

 俺が別れを告げた時、胡都はどういう気持ちだったのだろう。雀の涙ほどでも寂しいと、感じてくれてはいたのだろうか。

「そっか。胡都ってばそのこと、山内に話したんだ。てっきりいきなり最低になった山内が胡都に飽きて、フったのかと思ってた」
「はあ?飽きるわけねえじゃん、昨日もう一回告ったし」
「え、自分でフったのにまた告ったの?ウケるっ」
「うるせー」
「で、どうなった?」
「返事はもらわなかった。今は剣崎と付き合ってるって言われたから」
「あー……」

 ぽりぽりとこめかみをなぞる美智は、どこかばつが悪そうな顔。

「なに」
「いや、なんでもっ」
「剣崎と胡都って、いつから付き合ってんの」
「し、知らなーい」

 下手な芝居で、この場を乗り切ろうとしているのはバレバレだけれど、これ以上突っ込んだところで、俺の気分が明るくなるわけでもないし、深くは聞かないことにする。
 無機質な天井を見上げれば、そこに浮かび上がる胡都の笑顔。俺はまた、こんな彼女が見たい。