「おいちょっと、どこ行くの」

 俺と視線がかち合うやいなや、肩に手を回されて、半ば強引に教室から連れ出された根本が抵抗したのは翌朝のこと。

「ここ二年のフロアじゃんっ。気まずいって」
「だって二年に用があんだもん」
「はあ?二年の誰」
「剣崎」
「うっわ、強面グループのひとりじゃんか」

 胡都が首を横に振れぬのなら、もう剣崎に手を引いてもらうしか他にない。土下座をしてもいい、彼が気の済むまで殴られてもいい。だからどうか、胡都には手を出さないでほしい。

「俺は用ねえんだから、山内ひとりで行けよ」
「なんでだよ、つれねえなあ。一緒に来いよ」
「だって俺、なにすんの」
「んー、見てて」

 いらねえだろ、とぼやく根本と一緒に、端から覗いて進む二年のクラス。

「剣崎に何組か聞いとけばよかったなー」
「まだ来てねえかもよ」
「そっか。そしたら昼の方が確実か」

 そんな会話をしながら歩いていれば、授業に向かう担任と鉢合わせた。

「なにやってんだ山内、根本。そろそろチャイム鳴るぞ」
「あ、ツッチー。剣崎って何組?」
「剣崎?剣崎剛のことか?」
「下の名前は知らないけど」
「剣崎剛なら三組だ。だが今日は来てないぞ。インフルエンザにかかったと、今朝連絡があった。一週間ほどは登校できないだろう」
「え」

 勇んで来たのにもかかわらず、敵は不在。しゅるると闘魂が消えていく。

「いいから早く教室に戻れ。授業に遅れるぞ」

 担任に促され、一年一組へ戻る道すがら、根本に「じゃあ来週は見てて」とお願いすると、彼は胸元で交差した腕で、バツを作った。