ほぼ店員が運んできた形状のままのスイーツをテーブルに残し、店をあとにした帰り道、胡都の自宅方面の電車へ乗った。
 改札を抜け、彼女の家まで送る間、俺等ふたりに会話はなし。
 茜色の空では、カアと一羽のカラスが鳴いていた。悠々自適に飛び回る彼に胡都を括りつけ、遠く、剣崎のいない街へと拐ってしまいたい。

 胡都は、剣崎が死ぬとでも思っているのだろうか。ノーと言えば、剣崎が電車に飛び込むとでも。俺からすれば「そんなことない」と断言できることでも、ひとつの命が自分のせいで消えたと思い込んでいる彼女の視点は、いつまで経っても切り替わらないのだろうか。

「じゃあさ」

 玄関前、手を振りかけた胡都に聞く。

「じゃあ明日、俺が遊ぼうって誘ったらどうするの。胡都はそれでも、あいつの方に行くの?」

 剣崎の命か、俺の命か。何としてでも胡都を明日、剣崎の元へ行かせたくなくてかけた最後の望みだったけれど、それは彼女を追い詰めてしまうだけだった。