ふつふつと、剣崎に対する怒りが湧いて出る。ふつふつと、同時に湧くのは胡都への歯痒さ。

「そんなんで、万が一のことがあったらどうすんの?」

 図らずとも、声音は低く。射るような目で胡都を見れば、彼女は息を飲んでいた。

「断れないからって、ほいほいついて行って、それで明日、酷い目見たらどうすんの?それでも断らなくてよかったって、そう思えんの?」

 握っているこの華奢な手を、できるだけ優しく扱いたいけれど、気持ちが熱くなればなるほどに力が込められてしまう。

「なあ胡都、答えてよ。明日、それでも剣崎のとこへ行くの?」

 行かない。その答えしか受け入れられない。だから俺は彼女の答えを聞いた時、声を荒げてしまったんだ。

「行く」
「なんでだよ!」

 ガチャン!と卓上が喚いたのは、俺が拳を落としたから。

「行くじゃねえだろ、行かねえだろ!それが普通だろが!」

 胡都を怖がらせたいわけではない、むしろ救いたいのに。

「なんで行くんだよ!」

 昂ってしまった感情が、俺を制御不能にした。

 怒鳴り終えれば、はあはあと乱れる呼吸。涙目の胡都を前に、自分を戒めたくなった。
 ただでさえふたりだけ、近所の高校の制服姿で浮いているというのにもかかわらず、出してしまった大きな声。はたから見ればもう、俺は宇宙人かもしれない。

 物言わぬ胡都の手、そっと離す。するとそこには朱色の線が伸びていて、心だけではなく、彼女の身体まで傷付けた自分を嫌いになった。