なんだかものすごく、やるせなくなった。

「無理?無理なんかしてないよ?」
「してるじゃん」

 ころころと、真珠のように笑う君に惚れた俺。だからわかってしまうんだ。今朝からずっと、君は平常心ではないってこと。

「彼氏って、剣崎……?」

 違うと言って。そう願うけれど、胡都はこくんと頷いた。

「昨日、久しぶりに剣崎先輩から連絡きて、明日の放課後遊ぼうって誘われたの」
「行くの……?」
「うん」
「なんで」
「なんでって、彼女だから」

 いつも通りに振る舞おうと、胡都は流暢(りゅうちょう)に喋るけれど、震える唇は隠せない。明日への恐怖が、彼女をすっぽり包んでいる。

「行かないでよ」

 唇と同様に震える手をとり、訴えかける。

「俺この前言ったじゃんっ。次こそなにされるかわからないって、大変なことがあってからじゃ遅いってっ。また、変なドリンク飲まされるかもしれないんだよ?」

 危険な目に遭ってしまうかもと、彼女自身だってわかっているはずなのに。

「行くなよ胡都っ。今からでも断れよっ」

 けれどそんな危ない人間の誘いに応じてしまう理由は、やはりこれ。

「断るなんてできないっ」

 彼女はノーと言えない女の子だから。