「おはよう、山内くんっ」

 翌朝。通学路でぽんっと俺の背中を叩いてきたのは、他の誰でもない胡都だった。

「え、あ、おはよう」

 胡都にこんなことをされたのは初めてで、嬉しいはずなのに、俺は狼狽(うろた)えて。

「だ、大丈夫!?」

 と、主語なき問いを投げた。

「なにが?」
「えっと、ココ」
「ああ、すっごく悲しかったけど、でも長生きしてくれたし」
「そ、そっか」
「もう平気」
「よかった」

 先行くね、と手を振られて、俺も振り返す。彼女は少し先を歩く友達に、「萌ちゃんおはよう」と話しかけていた。

「昨日はありがとうね、萌ちゃん。わざわざお線香あげに来てくれて」
「ううん、全然だよ〜。ココちゃん、生きてる時に会いたかったなあ」
「ココもきっと、そう思ってるよ」

 そんな会話をする女子ふたりの後ろをとぼとぼ歩き、胡都の横顔を見て、気付くこと。

 真珠じゃない。

 今日の胡都の笑顔は、真珠のように輝いていない。おそらく彼女は、無理をしている。本当は辛いのに、悲しみの真っ只中なのに、愛想を振りまいているだけだ。

「胡都っ」

 君には心から笑っていてほしい。
 そう強く願えば出る行動。咄嗟に胡都の腕を掴み、振り向かせる。

「きょ、今日の放課後空いてる!?」
「今日?」
「駅前の商店街に新しくできたカフェ、行こうよっ!」

 目を丸くさせた彼女からは驚きの感情しか読み取れなくて、その向こう側にある気持ちはわからなかった。もしかしたら嫌だと思っているかもしれないし、なによフったくせに、だなんて思われているかもしれない。けれど。

「いいよ、放課後ね」

 と、頷いてくれたから、俺は嬉しくなったんだ。