「なにあんた、元気ないじゃん」

 夜八時までのバイトを終えて帰宅すると、台所ではスーツの上からエプロンを巻いた姉貴が、ジャアジャアと炒め物をしていた。

「あれ、母さんたちは?」
「お父さんもお母さんも残業だって。今ご飯作ってるから、稜は先にお風呂でも入っちゃえば?」
「ん」

 風呂を出て、食卓に腰をかける。肉野菜炒めと冷奴と、味噌汁とサラダと。即席のわりには多い品数に、感心した。
 いただきます、と味噌汁に口をつけると、エプロンを外した姉貴が目の前に腰を下ろしながら聞いてくる。

「で、なんで稜、そんな元気ないの」
「ん〜……」
「バイトのレジ打ちミスった?」
「ちげえよ」
「じゃあなに」
「ん〜……」

 胡瓜をぽりっと頬張って、俺の返事を待つ姉貴。俺はまた、味噌汁を啜った。

 胡都の愛犬、ココが亡くなったと聞かされた時、俺は彼女をフった身のくせして、どうしてその瞬間、側にいてあげられなかったのだろうと悔いた。打ちひしがれる胡都を抱きしめ、少しでも癒してあげたかっただなんて。そんなこと、彼女に愛されていない俺ができるわけがないのに。でも。

 イチョウくんじゃなくて、山内くんと一緒に撮りたいな。

 胡都がくれたあの言葉は、どういう意味だったのだろう。俺とのツーショットなんて、何とも思っていないただのクラスメイトとの写真なんて、必要ないだろうに。

「なあ姉貴」
「なに」
「俺とのツーショ写真ほしい?」
「え、べつにいらない」

 ほら、家族でさえも要らないそれを、胡都はどうして──

 悶々とする俺の前、姉貴がにやりと笑ってくる。