そう言うと、彼は茹で蛸のような真っ赤な顔で否定した。

「コ、コソコソって人聞き悪いですよっ。ぼくはみっちゃんさんが心配なだけですっ」
「心配?」
「夏休み、たまたま見ちゃったんです。みっちゃんさんと如何わしいおじさんが、手を繋いで繁華街を歩いているところを……」

 パパ活。

 俺の頭へ真っ先に浮かんだ文字はそれ。ブランドには全然詳しくはない俺でもわかるくらい、美智が身につけているものは有名で、高級品が多いし。

「どうしたらいいんでしょう山内くんっ。みっちゃんさんってやっぱり──」

 武藤くんの頭にも、同じ文字が浮かんだであろうその時、上から「またじゃん!」と立腹した声が聞こえてきた。

「なんなのよ武藤っ!まじあり得ない!人の盗み聞きばっかして、警察呼ぶよ!」

 怒髪衝天とはまさにこのこと。今にもその金髪が重力に逆らい、そそけりそうだ。

 鬼のような美智の形相に、あわわと俺の背へ隠れる武藤くん。頭のてっぺんからつま先まで舐めるように見られて、「山内も共犯?」と投げかけられる。

「いや、通りがかっただけ」
「あっそ。じゃあその犯罪者、逮捕しといて」
「うい」

 機嫌の悪い女子には逆らわない方がいい。これは、八つ離れた姉貴が教えてくれたこと。