ポケットから出したふたつの手を軽く握り、腿の上へ置いた彼。

「俺、ばかだからさ。胡都と付き合えて浮かれるばっかりで、胡都の気持ちに全然気付いてあげられなかった。冷静に考えてみればわかるのにな、そんなに喋ったこともない相手、胡都が好きになるわけないって」

 鳩尾(みぞおち)辺りがぎゅるると疼く。頭が痛い、目眩がする。わたしの過去を打ち明けてから今日までは、一週間ほど。その間ずっと山内くんを苦しめてしまっていたのだと知れば、たちどころに体調が悪化した。

「ち、ちがっ」

 何も違うことはない。彼の言っていることは、全て合っている。

「山内くん、わたし、ちがっ」

 だから最後まで、言い切れなかった。彼には嘘をつきたくないと強く思った心が、わたしの唇を止めたんだ。

「今までありがとう、胡都。これからはまた、いちクラスメイトとしてよろしくな」

 すっと差し出された山内くんの手。その手をとってしまえば、ふたりのこの関係にピリオドが打たれてしまうとわかっているから、容易にとることはできない。

「胡都……?」

 これを握れば好きでもない人間から解放されるというのに、どうして即行動に移さないのだろうと不思議に思ったのか、俯くわたしの顔を覗き込んでくるのは山内くん。

「胡都、どうしたの?」

 嫌だ。別れたくないよ、山内くん。

 そう言えないわたしは、拒めないわたしは、未だにやはり、秋宮くんに掌握されていて、「一生俺を想っててよ」と言った彼の思い通りなのだろうか。

 秋晴れでも、風は冷たい。暫くそんな風に吹かれさせてしまった山内くんの手に触れると、とても冷んやりしていて泣きたくなった。

「こちらこそ今までありがとう、山内くん」