「剣崎のやつ、あれからおとなしいな」

 週末は、山内くんとショッピングモールを訪れた。

「わたしのことなんて好きじゃなかったんだし、たぶんもう、どうでもいいんじゃないかな」
「だといいけど」

 色々なお店を巡って、試着をしたりして楽しんで。山内くんはわたしが「似合う」と言ったニット帽を購入していた。

「わあ、綺麗っ」

 秋晴れの今日は、フードコートのテラス席でも寒くはない。鮮やかな黄色に染まったイチョウの木を見ながらそう呟けば、山内くんがカメラモードにしたスマートフォンを向けてくる。

「胡都、笑ってー」

 突として要求されたスマイルに、上手な笑顔なんて作れない。広げた手のひらを、顔の前で往来させた。

「ひ、ひとりじゃ恥ずかしいっ」
「ひとりじゃないよ、後ろにイチョウくんもいるから」
「それ、ただの木だよおっ」

 あははと笑った山内くんの、爽やかスマイル。

 じゃあ今日にでも、俺とツーショ撮る?

 付き合いたての頃、そう言ってくれた山内くんに、首を横に振ってしまったわたし。けれど今ならふたりで撮れると、いや、撮りたいと、そう思った。

「じゃ、じゃあ山内くんも入ろ?」

 少しの勇気を出して、彼を誘った。

「イチョウくんじゃなくて、山内くんと一緒に撮りたいな」

 いいよとか、もちろんとか、そんな答えを期待しながら返事を待っている間は、心臓がドキドキと騒がしく喚いていた。恋煩(こいわずら)いという単語は、今この場面には合っていないと思うけれど、山内くんに恋をし始めたから、こんなにも心臓が煩いのかなあと考えたら、その単語が頭の真ん中へ浮かんできた。

 ドキドキドキドキ

 だけどその心臓が、次の瞬間止まりかける。それは、山内くんが次に発した言葉が(やいば)となり、そこを貫いたから。

「胡都。俺等もう、別れようか」