「胡都と武藤じゃん。ふたりってそんなに引っ付くほど、仲良かったっけ」

 止まる理由のない段差で佇み、不自然に身を寄せ合う武藤くんとわたしは不審者そのもの。わたしたちが何かよからぬことをしていたのは、誰が見ても明け透けだった。
 不機嫌そうなみっちゃんを前にすれば、わたしも武藤くんのように敬語になる。

「た、たった今、仲良くなったのです……」
「へえ、なんで」
「しゅ、趣味が一緒だねって判明してっ」
「それって盗み聞きのこと?」

 ぎくり。

 これまたバレバレな反応を見せたところで、始業チャイムの音が響き渡る。
 つんとした態度のみっちゃんが(きびす)を返すから、わたしは慌てて彼女を追いかけた。

「ちょ、胡都やめてよっ」
「ごめんみっちゃぁん!」

 無理矢理組んだ腕、離さない。

「なんも聞こえてないから、本当だからっ」
「絶対嘘っ。人の電話に聞き耳立てるなんて、まじサイテーっ!」
「ごめん!」

 ごめんごめんと執拗に唱え続ければ、そんなわたしを面倒くさがったみっちゃんが、「もう、わかったってば」と気持ちを切り替えてくれた。

「だけど、こんなこともう二度としないでよ。なにを聞いたのかわからないけど、武藤にも首突っ込むなって言っておいて」

 けれどその代わり、そう強く言われてしまったから、わたしは今回の件で抱えたもやもやを、それからみっちゃんに吐き出すことはできなかった。