「し、心配なんです、山内くんのこと……流血もして、けっこうな怪我だったのに、わたしの前では強がってくるから……」

 自分のことよりも、相手のこと。

 いつもわたしの気持ちを真っ先に考えてくれる山内くんは、彼の『本当』を教えてはくれないだろう。まだ痛いのだと、辛いのだと言ってしまえば、きっとわたしが自分を責めると知っているから。

 キィーッと音を立て、背もたれを倒した西条先生は、それに近い音程でキャッキャと笑った。

「なにあんたたちカップル、全く同じこと言ってるんだけど〜!」

 キャピキャピした女子高生のようにひとり盛り上がる彼女は、胸元で組んだ両手を左右に揺らす。

「山内もね、この前剥がれたガーゼ直しにここ来た時、とある女子生徒の話してきてっ」
「とある、女子生徒の話……?」
「その子強がってるんだ頑張ってるんだって、心配でしょうがないって言ってきて、どうしたらいいんだろうだなんて相談までしてきたのよっ。あれはそっか、伊吹さんのことだったのね〜」

 そう早口で言い終えた西条先生は、「そっかそっか」と繋がった点と点の余韻に浸る。
 一方のわたしは唖然中。中学二年生のあの日の出来事を全て知らせた時の山内くんは、「そうだったんだ、辛かったね」と優しくわたしの頭を撫でるだけで、それ以上深くは聞いてこなかったし、それに対して悩んでいるようにも見えなかったから。

「山内くん……」

 驚きが薄まるにつれて、やって来るのは感動の波。

 山内のこと、好きになってきてるじゃん。

 つい先ほどみっちゃんの顔に書かれていたその言葉が、胸へひしひし染み渡る。