「なにこの雨。聞いてないんですけど」

 山内くんが頭に傷を負ってから、数日後の昼休み。中学生の時から変わらず、予報にない雨が大嫌いなみっちゃんは、窓から見える雨粒に舌を出していた。それを見てくすくすと笑うのは萌ちゃんで、ゆっぴーは「五限目の体育どうすんだろー」と、パックジュースのストローを咥えながら椅子ごと揺れていた。
 窓際のわたしの席と、斜め前のみっちゃんの席。あとのふたつの席の持ち主に許可をとり、四人で食事をするのがランチタイムの定番だ。

「それよりさ、山内くんの傷よくなってきたね。顎のところ、もうすっきりじゃん」

 根本くんを含めた男子数人と、黒板の近くで食事をとる山内くんに目を向けて、ゆっぴーがそう言った。

「この前、胡都を迎えにきたあの怖い先輩にやられたんでしょ?好きな女を取り返すために身体を張ってくれるなんて、惚れ直しちゃうねっ」
「あー、うん……」

 曖昧に首を振り、ペットボトルで口を塞ぐ。わたしのトラウマを知らないゆっぴーと萌ちゃんは、わたしが山内くんのことを好きで付き合っていると思っているから、剣崎先輩との関係もあやふやにしか伝えてはいない。彼女たちは彼のことを、『胡都に興味ある人』くらいにしか思っていないだろう。
 山内くんと剣崎先輩の線路での一件は、剣崎先輩が口止めをしたお陰で、大ごとに至らず済んだ。