「胡都、その血……」

 今のわたしには、頬についたそれを鏡で確認しようとか、そういう気持ちは生まれないから、自分の顔がどれだけ酷いことになっているのかはわからない。けれどみっちゃんの黒目が、わたしの全身至るところを彷徨うから、わたしも自分の制服に目を落とすと、そこには赤いインクに浸した筆を払われたような跡が、幾つも付着していた。

「みっちゃん、わたし……」

 極寒の中、助けを乞う人間の如く、声も身体もガタガタ震えた。

「わたし……わ、わたし秋宮くんのこと……」

 わたしが秋宮くんを好きになることは一生ない。

 どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。秋宮くんは、わたしをずっと好きでいてくれたのに。それをありがとうって、わたしはどうして受け取れなかった?
 わたしが頷いてさえいれば、秋宮くんは死ななかったのに。

 天気予報に載っていなかった雨が降り続ける。お好み焼き屋へ行くはずだったわたしたちの予定は、秋宮くんの命と共になくなった。

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