またか。

 今日はいつその話題を切り出されるのだろうと緊張していたけれど、歩き始めて一分も経たぬうちにお決まりフレーズを口にされ、げんなりした。

「だーかーらー。秋宮くんとは付き合わないってばっ」

 やや大きめな声で断ると、小さく「なんで」と返ってくる。

「何度も言ってるじゃん。わたしは秋宮くんのことを、ただの友達としてしか見てないって」
「そこを一歩踏み出てみてよ」
「ええ?」
「とりあえず俺を彼氏にしてみたら、なにか変わるかもしれないじゃんか」
「変わりませんっ」

 秋宮くんとするこんなやり取りは、二年二組の皆にとってはお馴染みの光景だから、囃し立てられたりはしない。また始まった、くらいの目は向けられていたかもしれないけれど、傘があるからそれも気にはならなかった。

「なあ胡都、まじで頼むよ。四月からはもう別々のクラスなんだし、恋人同士にならなきゃなにかと不便じゃん」
「不便って、なに」
「教室行き来したり喋ったりするのっ。もし俺が一組で胡都が七組になっちゃったら、廊下の端と端だぜ?」
「それでもきっと、一日一回くらいはすれ違うでしょ」
「そんなんじゃ足りねえよっ」

 いつもはこのくらいで引いてくれる彼なのに、今日はやたらと粘ってくる。呆れ顔で溜め息を吐き、わたしはどうしたらいいものかと考える。

「今日は胡都がオーケーしてくれるまで、好きだって言い続けるから」
「ちょ、そんなの困るよっ。せっかくのお別れパーティーなのに、それじゃあみんなと喋れないじゃんっ」
「だろ?困るだろ?だから今オーケーしちまった方が楽だぜ」
「もー、秋宮くんってば。それはずるいっ」

 にししと悪戯な笑みを見せてくる秋宮くんの肩を軽く叩くと、彼は「いてえ!」とオーバーなリアクション。

「そんなに痛くないくせにっ」
「いてえよいてえ。胡都の怪力ー」
「わ、ひっどいっ」

 今度は先ほどよりも強い力でバチンと叩くが、「いてえ」を繰り返しながらケラケラと笑う秋宮くんにつられてしまったわたしは、不覚にも、彼と同じ表情に。そんな顔を見せてしまえば、もうひとつのお決まりフレーズを言われるとわかっているのに。

「ほら、な?俺といると楽しいでしょ」