「ああもう最悪〜!卒業までこのクラスのままがよかったのに〜!」

 中学二年生の三月。年度最後の終業式。折り畳み傘を広げたみっちゃんが、暗い空を見て嘆く。

「しかもなにこの天気っ。今からみんなでお好み焼き屋行こーって時に降り始めるとか、まじでないっ。空ならもっと空気読めし」

 彼女が空へ放つ無茶苦茶な文句に笑いながら、わたしも携帯していた折り畳み傘を開くと、それを見計らったように隣へやって来たのは、ひとつの人影。

「胡都っ、ちょっと駅まで入れてってよ」
「秋宮くん」
「なんで女子ってこういう時傘持ってんの?男子なんか、ほぼほぼないぜ?」

 花の二年二組と周囲が羨むほど、楽しく明るいメンバーが勢揃いで、その上一際仲も良かったうちのクラス。しかし抗えない進級、それに伴うクラス替えにより、二年二組は今日で解散。お別れパーティーをやろうと誰かが言い出せば、満場一致した。

「雨じゃなかったら、一駅くらい歩いたのにな」

 我が物顔で傘のシャフトを持ち、ふたりの真ん中の宙で保つ彼。みっちゃんはやれやれといった表情で、他の友達の輪に混ざる。

「岡本くんちのお店だっけ、今日行くお好み焼き屋さん」
「おう。俺等のために、貸し切りにしてくれてんだってさ」
「わあ、ありがたいねえ」

 そんな話をしながらも、わたしは内心ドキドキしていた。それはわたしが秋宮くんに恋をしているからではなくて、その真逆。彼が、わたしに恋をしているから。

「なあ胡都、俺と付き合ってよ」