「胡都……」

 見上げられて、片頬を包まれる。

「胡都、隣きて。座って話そ」
「でも、まだ傷が……」
「もういいから」

 ソファーへ置いてあった救急箱を端へ寄せて、座面を叩く山内くん。

「胡都、きて」

 瞬きをしてしまえば、彼の頬に落ちる雫。それを「ごめん」と親指でなぞると、彼はその指を含めたわたしの五本の指に、自身の指を絡ませてきた。

「お願い、胡都。俺の隣にきてほしい」

 繋いだ手を離さずに、わたしはぐるっとソファーの前へ行く。山内くんが叩いた箇所に腰を下ろすと、ココもわたしの腿へジャンプし、ちょこんと座った。

「胡都。今から俺、我儘言うけどいい?」

 その内容が予想できずに、頷けずにいると、山内くんがふうっと深呼吸。そして口を(ひら)く。

「もう剣崎のやつと、学校以外で会わないで」

 貫くような眼差しだったけれど、物腰が柔らかな口調だった。再び大きく息を吸った山内くんの、胸板が一枚厚くなる。

「今回は未遂で終わったけど、次こそあいつ、胡都になにしてくるかわかんないよ。だからもう、あいつになに言われてもついて行かないで、断って。胡都に大変なことがあってからじゃ、遅いから」

 嫉妬とかやきもちではなく、心底わたしを心配してくれていると伝わった。恋人を越えた山内くんの広大な愛情に感動し、そのまま「はい」と首を縦に振ればいい、それがきっと正解だ。